相続放棄をした後の家はどうなるか

 遺産の中に自宅があるものの,借金が多いため,相続放棄をしたいというご相談をよく受けます。
 このとき,ご依頼者様が気になさるのが,「相続放棄をした後,家はどうなるのか」ということです。
 

 たとえば,名古屋の自宅で父親が亡くなり,子が相続放棄をしたケースを考えてみましょう。

 
 まず,子が相続放棄をした場合,相続権が次の順位の相続人に移ります。
 

 次の順位の相続人は亡くなった父の両親(祖父母)です。
 亡くなった父の両親(祖父母)が相続放棄をしたり,あるいはすでに他界している場合,次の順位の相続人は,亡くなった父の兄弟姉妹です。
 
 亡くなった父の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合,その子(甥・姪)が相続人になります。
 
 では,相続人全員が相続放棄をした場合,どうなるのでしょうか。
 
 法律上は,相続人が全員相続放棄した場合,遺産は国の所有物になることになっています。
 しかし,自動的に遺産が国の所有物になるわけではなく,裁判所で色々手続きを行う必要があります。

 この「裁判所での手続き」というのが,かなり大変です。

 具体的な手続き内容ですが,相続財産管理人という人を裁判所が指名し,その人が遺産を国の所有物にするための手続きを行います。
 

 国は通常不動産をもらってくれませんので,不動産は売却して,その代金を国に納めることが多いです。
 
 亡くなった方にお金を貸していた人がいる場合,先にその人に借金を返すことも必要です。
 
 こういった手続きを行うのは,専門的な知識が必要なため,相続財産管理人は弁護士が指名される場合が多く,その弁護士への報酬も遺産の中から支払われます。
 
 ただ,遺産が少ない場合は,先に弁護士への報酬を裁判所に納める必要があり,場合によっては100万円前後の費用が必要です。
 

 この費用を支払うことを避けるため,相続財産管理人制度を利用せず,そのまま遺産を放置するケースもよくあります。
 
 ただ,注意点として,相続放棄をしても,相続財産管理人を選ばない限り,その不動産の管理責任は残ります。
 
 どんな管理責任が残るのかは,ケースによって異なるため,弁護士にご相談ください。

介護を頑張った場合の寄与分

 相続のご相談の場面では,寄与分という言葉が出てくることがあります。
 寄与分という制度を一言で言い表すと,「亡くなった方に尽くして,貢献した人に,多めに遺産を相続させよう」という制度です。
 

 相続の場面で一番多く主張されるのは,「介護を頑張ったから,私が一番多く遺産をもらうべきだ」という主張です。

 
 「介護を頑張った人に,多めに遺産を相続させるべき」という考え方自体は,多くの方に受け入れられた自然な感情であり,実際に法律に寄与分という制度が存在します。
 

 しかし,この「介護を頑張った」ということは,裁判所はあまり評価をしてくれません。
 裁判所の考え方は,「家族だから介護をするのは当然であり,当然のことをしたからといって,遺産を多く渡す理由はない」というものです。
 
 私はこの考え方に非常に疑問を持っています。

 たとえば,長女が父と同居して,父の介護を一人で行い,他の兄弟は介護をしていないという場合,「介護の負担」という面では不平等になっています。
 
 「家族だから介護は当然」というのであれば,その当然のことをしていない他の兄弟と,介護をした長女が平等に遺産を相続するというのは,何とも不平等だと思います。

 
他方で,寄与分が認められるケースもあります。
 

 たとえば,一人でお風呂やトイレが難しい親の介護を,数年間,無償で行ったというようなケースであれば,「家族として当然のこと」というレベルを超えた,特別な貢献があると認められる可能性があります。
 

 また,認知症がひどく,常に見守りが必要な状態だったというケースであれば,より寄与分が認められる可能性が高まります。

 
 他方で,親が施設に入居している場合,基本的に身の回りの世話は施設の人が行っていることになりますので,寄与分が認められる可能性は低くなります。
 
 私の個人的な意見としては,親が施設にいる場合でも,施設の入居手続き,買い物等のお世話は一人の人が集中的に行うケースが多く,他の相続人と平等に遺産を相続するのは不平等だと思いますが・・・。
 
介護を頑張った場合,どういった事情があれば寄与分が認められるのかは,ケースごとに異なりますので,一度弁護士にご相談ください。

限定承認の手続き

 限定承認の手続きをする際には,様々な注意点があります。
 まず,限定承認は,相続人全員で行う必要があります。
 たとえば,相続人が兄弟3名の場合,一人でも限定承認に反対した場合は,限定承認を行うことができません。

 そのため,限定承認を行う場合は,相続人全員で話し合いが必要になります。

 
 次に,相続人全員で限定承認を行うと決まった場合,裁判所に「限定承認をしたい」という申し出を行います。

 この申し出は,ご家族が亡くなったのを知ってから3か月以内に行わないといけないため,急いで手続きをしなければなりません。

 この期間を過ぎてしまうと,遺産を相続したことになり,借金を全て相続することになってしまうので,注意が必要です。
 
 裁判所が限定承認を認めてくれた場合,原則として5日以内に,「亡くなった方にお金を貸していた方は申し出てください」という記事を,官報に掲載する必要があります。
 
 また,家に借金の通知が来ている等の理由から,債権者がはっきりしている場合は,その債権者に通知を送る必要があります。
 
 これに加え,限定承認を行った場合,亡くなった方の確定申告をしなければならず,確定申告の期限は,亡くなってから4か月以内です。
 「限定承認をしてから4カ月」ではありませんので,注意が必要です。
 

 その後は,不動産を競売にかけたり,借金を返済する等,破産手続きに近いような手続きを行います。
 
 このように,限定承認は,とても慌ただしく,多くの手続きを一度に行う必要があり,とても負担が重い制度です。

 限定承認をお考えの方は,なるべく早く,弁護士に相談することをお勧めします。

相続放棄と限定承認の違い

 相続放棄は,言葉のイメージ通り,財産を一切受け継がないという制度です。
 亡くなった方のプラスの財産があまりなく,むしろ借金などが多いような場合,相続放棄をすれば,借金を背負わなくてよくなります。
 そのため,明らかに借金の方が多い場合や,遺産の中に欲しい財産がない場合は,相続放棄を行うことをお勧めします。
 
 では,プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いのか分からない場合や,借金の方が多いのは分かっているが,遺産の中に欲しい財産があるため,相続放棄はしたくないという場合はどうすればいいでしょうか。
 
 こういうケースでは限定承認という手続きをすることをお勧めします。

 限定承認をすれば,プラスの財産も借金も受け継ぐことになりますが,借金は遺産の中から払えばよく,相続人の財産から借金を支払う必要がなくなります。
 
 たとえば,遺産の中に預貯金が500万円あって,借金が700万円ある場合,借金は遺産の500万円の範囲内で支払えばよく,残りの200万円については,借金を返す必要がありません。
 
 他方,預貯金が800万円あって,借金が600万円だった場合,遺産から600万円を支払い,残りの200万円を相続することができます。
 

 このように,限定承認は「借金などの責任を,遺産の範囲内で負う」という便利な制度です。

 ただ,限定承認は「ミニ破産手続き」とも呼ばれており,とても時間と手間がかかる手続きです。

 また,普通に相続をする場合と比べて,税金を多く支払わないといけなくなる場合もあり,法律と税金に詳しい弁護士に相談をする必要があります。

相続税がかかる財産と非課税の財産

 相続税は,亡くなった人が所有していたプラスの財産にかかります。
 プラスの財産として真っ先に思い浮かぶのは自宅などの不動産や,預貯金だと思います。
 もちろん,株式や国債,自動車,宝石,家電家具等,亡くなった方が所有していた財産は,そのほとんどが相続税の対象になります。
 
 他方,亡くなった方が所有していた財産ではないのに,相続税がかかってしまう財産というものもあります。

 たとえば,亡くなった方が保険料を支払っていた死亡保険金は,相続財産とみなされます。

 他には,在職中に亡くなった方の勤務先から支払われた死亡退職金も,相続財産とみなされます。
 
 さらに,亡くなる3年以内に行った生前贈与も,相続財産とみなされます。
 亡くなる直前に相続税を節税するために,生前贈与を行っても,それは税務署が認めないというわけです。
 
 反対に,非課税の財産というものもあります。
 
 たとえば,墓地,仏壇等,先祖を弔うための宗教的な財産は,相続税がかかりません。

 とはいえ,相続税を節税するためだけに,純金製の仏具などを買った場合は,相続税がかかる可能性があります。

 
 また,本来は相続税がかかるものの,例外的に非課税になるケースも認められています。

 たとえば,死亡保険金や死亡退職金の一部は非課税になりますので,この点を利用して相続税の対策を実践される方も多いです。
 
 弁護士は必ずしも税金に詳しいわけではありませんが,相続を扱う弁護士であれば,税金の問題は避けて通ることはできません。
 
 特に,相続税は頻繁に法律が変わるため,常に最新情報をチェックする必要があります。

補助人の職務と権限

 判断能力はあるものの,一部心配な部分があるため,サポートできる体制を作っておきたい。
 補助制度は,そんな場合に利用されます。
 

 たとえば,軽度の認知症にかかっているAさんという人物を例に考えてみましょう。
 
 Aさんは,認知症があまり進んでいないため,記憶力や集中力はしっかりしています。

 ただ,文章を読んで理解する力がやや衰えていたり,人の話を聞いて,理解に時間がかかることがあります。
 
 そのためAさんは,内容を理解したわけではないのに,相手に気を使って,とりあえず「はい」とか「いいよ」といった,迎合的な発言をしてしまうことがあります。
 
 そんなAさんの特徴を利用して,知人Bさんが色々な理屈をこねた上で,「お金を恵んで欲しい」と言ってくることがあり,Aさんはついつい「いいよ」と答えてしまうことが続いていました。
 
 このようなケースでは,ついついお金をあげてしまうAさんを保護する必要があります。

 そこで,補助人をAさんにつけ,Aさんがお金をあげるときは,事前に補助人の同意が必要としておきます。
 
 こうすることで,Aさんがついお金をBさんにあげてしまっても,補助人は契約を取り消すことができます。

 
補助制度は,他の後見制度である成年後見や保佐と比べると,利用されることはあまり多くありません。

 判断能力がまだまだしっかりしているという状態で,わざわざ裁判所で補助人をつけるという手続きをしようと思う人が少ないことが理由と思われます。
 
 また,判断能力がしっかりしている状態であれば,財産の管理を子どもに任せるなどの方法で,大きなトラブルは回避することができます。
 
 補助制度の利用を検討されている方は,任意後見契約や家族信託という制度も検討することをお勧めします。
 
 どの制度を利用するのが最善かは,成年後見制度や家族信託に詳しい弁護士にご相談ください。

相続税申告が必要な場合と不要な場合

 相続の問題と切っても切れないのが,相続税の問題です。
 相続税は亡くなってから10カ月以内に申告と納税をしなければなりません。
 
 そのため,相続のご相談があったときは,まず相続税を払う必要があるかどうかを見極めることが大切です。

 それでは,どんな場合に相続税がかかるのでしょうか。
 
 相続税には,基礎控除と非課税部分があります。

 令和2年3月時点の法律では,基礎控除が3000万円のため,遺産総額が3000万円以下であれば,相続税の申告は不要です。
 
 また,相続人が一人増えるたびに,600万円が基礎控除になります。
 たとえば,相続人が1人なら,基礎控除3000万円に600万円が加わるため,遺産総額が3600万円以下であれば,相続税申告は不要です。
 相続人が2人であれば,基礎控除3000万円に,1200万円が加わるため,遺産総額が4200万円以下であれば,相続税申告は不要です。
 
 ここで難しいのが,遺産総額が一体いくらなのか,という問題です。

 現金や預金であれば,計算が簡単ですが,不動産がある場合,その不動産の価格を調べる必要があります。
 
 また,遺産の中に株式がある場合も,その価格を調べる必要があります。
 
 このように,遺産総額の計算は簡単にはできないため,遺産総額が基礎控除を超える可能性がある場合は,専門家に相談することをお勧めします。

 税の専門家は税理士ですが,遺産の内容によっては相続人同士でもめる可能性もあるので,弁護士にも相談した方が,より適切なアドバイスを受けることができます。
 

 私が所属している事務所ではグループ法人に税理士法人もありますので,ご来所いただければ,税理士と一緒に相談を受けさせていただきます。

名古屋で相続税の申告をお考えの方はこちらをご覧ください。

保佐人の職務と権限

 重度の認知症等で,判断能力が著しく低下した人には,後見人が就くことになります。
 他方,判断能力がそこまで低下しているわけではない場合は,保佐人が就くことがあります。
 
 保佐人が就く場合は,サポートを受ける人(被保佐人)が判断能力を有していることが前提となっています。
 
 そのため,保佐人は原則として被保佐人の財産を管理する権限はありません。
 
 では,保佐人はどういった職務を行うのでしょうか。
 保佐人が選任されると,「被保佐人の行為のうち,重要なものについては,保佐人の同意が必要になる」という法律があります。
 保佐人の職務は,この同意をするかどうかを決める,というものです。
 
 たとえば,被保佐人が借金をしたり,不動産の売却や購入をする場合は,保佐人の同意が必要です。
 
 また,被保佐人の財産を誰かに贈与したり,裁判をしたりする行為も保佐人の同意が必要です。
 
 仮に,保佐人の同意なく,これらの行為を行った場合,保佐人はこれらの行為を取り消すことができます。

 
 このように,保佐の制度は,原則として被保佐人が自由に財産上の行為ができることを前提に,悪い人に騙されて大きな損害を被る恐れがあるような場合だけ,保佐人が被保佐人をサポートすることで,被保佐人の保護を図るという設計になっています。
 
 もっとも,保佐人に特別に財産の管理権を与えることもできるなど,保佐の制度は柔軟性も持っています。
 
 保佐制度には後見制度にはないメリットもありますので,保佐制度について詳しく知りたい方は,一度弁護士にご相談ください。

後見人の権限と職務

 たとえば,寝たきりになって意識がない人や,重度の認知症になった人は,悪い人に騙されて財産をとられてしまう可能性があります。
 また,そういった症状の人は,設備が整った施設で,手厚い保護が必要になります。
 

 後見人はそういった人を全面的にサポートする責務を負うため,それに見合った広い権限を与えられます。

 
具体的には,サポートを受ける人(被後見人)の財産について包括的な代理権を持ちます。
 
 たとえば,病院や施設に利用料を支払ったりするために預金を払い戻したり,場合によっては家を売却することも可能です。
 
 ただ,もちろんこれらの行為はサポートが必要な被後見人のために行うのであって,お世話をする立場にある後見人が私利私欲のために権限を行使することは許されません。
 
 広い権限が認められている後見人ですが,被後見人の代わりに行うことができない行為もあります。
 
 たとえば,婚姻,離婚,養子縁組など,家族関係に関わる行為は,本人の意思でのみ行うべきとされているので,後見人が代わりに行うことはできません。
 
 また,遺言書の作成についても,本人の意思でのみ行うべき行為であるため,後見人が代わりに遺言書を作成することはできません。
 
 後見人として行う義務がある行為と,行ってはならない行為というものがあり,これらを知らずに後見人の職務をこなすことは非常に危険です。
 
 
 成年後見制度の利用を検討されている方は,後見制度を利用した場合に発生する義務や権利について,事前に弁護士から説明を受けることをお勧めします。

後見制度を利用する前のチェックポイント

 成年後見制度を利用しようとした場合,その旨を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
 では,誰であっても成年後見制度の申立てをできるのかというと,それは違います。
 

 成年後見制度は,判断能力が低下した人を守るための制度であるため,判断能力が低下した人と近しい人のみが,申立てをすることができます。
 

 具体的には,判断能力が低下した本人,配偶者,4親等内の親族などです(その他細かい例外はあります)。
 
 4親等内の親族とは,判断能力が低下した人の両親,子,兄弟,伯父,叔母,従兄弟などが該当します。
 
 次に,後見人(判断能力が低下した人をサポートする人)になる場合にも,一定の条件を満たす必要があります。
 まず,未成年者は後見人になることができません。
 
 次に,破産した人や行方不明の人も後見人になることはできません。
 
 後見人は,判断能力が低下した人を守り,安心して暮らせるようにするための環境を整備する責務があるため,その責務を十分にまっとうできる人でないといけないためです。
 
 裁判所の方針として,後見人は家族がなるべきとされていますが,法律上はそのような制限はなく,法律の専門家が後見人になることもよくあります。
 
 
 成年後見制度の利用を検討されている方は,誰が申立てをするのか,誰が後見人になるのかといったことについて,事前に弁護士に相談して,今後のプランを考えることをお勧めします。

成年後見制度の概要

 成年後見制度は,認知症等の理由で,判断能力が低下した人を保護するための制度です。

 たとえば,判断能力が低下した人をターゲットに,「名古屋の土地は絶対値上がりするから,今のうちに買っておくとお得ですよ」等と言って,不動産を買わせようとしてくる業者がいるかもしれません。
 
 そのような悪徳業者から,判断能力が低下した人を守る必要があります。
 
 また,体が不自由になると,施設に入所するための契約等を行うことがありますが,判断能力が低下すると,そういった契約ができない可能性があります。

 
 そういった場合に,判断能力が低下した人を助けるための制度が成年後見制度です。
 
 先程の具体例では,成年後見人になった人が,不要な不動産を交わされた場合に,その契約を取り消したり,判断能力が低下した人の代わりに施設に入所する契約を締結したりできます。
 
 成年後見制度には具体的に3つのパターンがあります。
 一つ目は,判断能力が低下した人を全面的にサポートする「後見」制度です。
 
 後見人は,判断能力がかなり低下した状態が長く続いている人の代わりに,様々な活動を行います(たとえば,寝たきりで意識がない人や,重度の認知症で家族の顔や名前が分からないような場合に後見人がつきます)。
 
 二つ目は,「保佐」制度です。
 
 保佐制度は,後見人が就く必要があるほどには,判断能力が低下していない場合に,利用されます。
 三つ目に「補助」制度があります。
 
 補助制度は,保佐人が就く場合より,さらに判断能力が低下していない場合に利用されます。
 
 成年後見制度は,ご家族の判断能力の程度に合わせて,適切な判断が必要になりますので,成年後見制度の利用を検討されている方は,弁護士にご相談ください。

遺留分という制度

 たとえば,父親が全ての財産を長男に相続させるという内容の遺言書を残していたとしても,次男は一定の割合で長男に対して金銭を支払うよう請求することができます。
 このように,一定の範囲の相続人に対して,必ず一定割合の相続権を保障する制度を遺留分といいます。

 
 しかし,考えてみると,この遺留分という制度は不思議な制度です。

 基本的に,自分の財産を誰にあげるかは,その人が好きに決めていいはずです。

 それにも関わらず,なぜ遺留分という制度があるのでしょうか。

 日本で遺留分という制度が始まったのは,明治時代のことです。

 明治時代はまだ家督相続の時代だったため,「財産はできるだけ家族の中にとどめておかなければならない」と考えられていました。

 しかし,たとえば父親が家の外で愛人を作り,遺言で全部の財産を愛人に渡すようなことをされては,家督を継ぐべき長男が,一切の財産を手に入れることができなくなり,家制度を維持できなくなります。

 このような事態を防ぐために,遺留分制度は創設されたものの,家督相続がなくなった今の日本では,そのような理由で遺留分制度は正当化ができません。
 今は,遺族と近しい親族の生活を守るための制度が遺留分であると,説明されることが多いです。

 しかし,たとえば相続人が妻と長男の二人の場合で,高齢や病気などで多くの医療費などがかかることが予想される妻と,資産を多数持っていて生活に困っていない長男がいる場合,夫の全財産を妻に相続させることは,それほど不当なことではないようにも思えます。

 遺留分という制度自体をなくす必要はないと思いますが,より柔軟に使えるような制度になると,より多くのニーズを満たすことができるのではないでしょうか。

 遺留分については,相続法改正で大きく内容が変わりましたので,ご興味を持たれた方は弁護士にご相談ください。

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相続人の廃除

 兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分という権利を有しています。

 そのため,たとえば父親が長女にだけ遺産を渡し,次女には遺産を渡さないという遺言書を作成した場合であっても,次女は一定の割合で長女に金銭の支払いを求めることができます。
 

 しかし,特別な事情がある場合は,父親の意思で次女の相続権を奪うことができます。

 
特別な場合とは,たとえば次女が父親を虐待したり,重大な侮辱をしたような場合です。
 
 このような場合に,父親が家庭裁判所に「次女の相続権を奪ってほしい」と申し立てる制度を,相続人の廃除といいます。

 
 とはいっても,虐待や重大な侮辱が問題になるケースは少なく,実際には「著しい非行」を行ったかどうかが争点になることが多いです。

 「著しい非行」という言葉は,何とも抽象的なため,以下では,相続人の行為が「著しい非行」に該当すると裁判所が判断した事例を簡単にご紹介します。

 
 まず,子が親の反対を押し切って暴力団員と結婚し,親の名前で披露宴の招待状を出したケースでは,「著しい非行」に該当するとされました。
 
 また,少年時代から非行を繰り返し,成人してからも交通事故や借金を繰り返し,親が謝罪や賠償を繰り返してきた場合も,「著しい非行」に該当するとされました。
 
 このように,「家族としての関係が破壊されていて,回復ができない」と言えるようなケースについては,相続人の廃除を家庭裁判所に申し立てることができます。
 この相続人の廃除は,遺言書に書いておき,死後に家庭裁判所で審理をすることも可能です。
 
 どうしても財産を渡したくない家族がいる場合は,相続人の廃除ができないかを,弁護士にご相談ください。

相続人としての地位を失うケース②

 相続人としてあるまじき行為をした人は,相続権を失います。

 たとえば,長男が父親を強迫し,「名古屋の自宅と預貯金を長男に相続させる」といった内容の遺言書を無理やり書かせた場合,その長男からは相続権をはく奪すべきです。
 

 また,父親がすでに遺言書を作成している場合に,長男が父親を強迫し,無理やり遺言書の内容を変更させたような場合も,長男は相続権を失います。

 
 相続権を失うケースで,最も多い類型の一つが遺言書を偽造したり,変造するケースです。

 
 偽造とは,たとえば長男が父親の名前を使って遺言書を作成し,まるで父親が作ったかのような遺言書を作成することをいいます。
 変造とは,父親が作った遺言書の一部を勝手に変更することをいいます。

 
 いずれものケースでも,長男に遺産を与えることは不当であるため,長男は相続権を失います。
 
 次に,遺言書を破壊してしまう行為についても,相続欠格に該当します。
 たとえば,長男が父親の遺言書を家の中で見つけたが,自分に不利な内容であったため,破り捨ててしまったり,燃やしてしまったような場合が想定されています。
 
 これと似たような類型として,遺言書を隠してしまった場合も,相続欠格に該当します。
 せっかく父親が書いた遺言書があるのに,それを誰も見つけることができないように隠してしまえば,それは遺言書を燃やしてしまうのと同じということです。
 
 このように,「そんな悪いことをした相続人には,遺産を渡すべきではない」と言えるようなケースについては,悪いことをした人の相続権がはく奪されてしまいます。
 特に,遺言書を見つけた方は,相続欠格に該当しないように,遺言書を慎重に扱う必要があります。
 
 また,遺言書を見つけた方や,遺言書を預かっている方は,裁判所に遺言書を提出する等,様々な手続きが必要になりますので,一度弁護士に相談することをお勧めします。

相続人としての地位を失うケース①

 子や配偶者等の一定の親族は,相続人になることができます。

 しかし,特別な事情がある場合には,子や配偶者であっても相続権を失うケースが法律で定められています(これを相続欠格といいます)。
 

 たとえば,父親が亡くなり,母親と長男と次男が相続人というケースを考えてみます。
 もし,長男が父親をナイフで刺したために,父親が亡くなったという場合はどうなるでしょうか。
 
 このような場合に,長男が父親の遺産を相続すことを認めることは,殺人者に利益を与えることになり,不当だということは明らかです。
 そこで,こういったケースでは,長男は相続権を失ってしまいます。
 
 もっとも,注意すべき点は「故意に殺した」こと,つまり殺人罪が適用されるケースに限られるという点です。
 そのため,たとえば長男が部屋で木刀を素振りしていた時に,うっかり同じ部屋にいた父親に木刀をあてて死なせてしまったようなケース(過失犯)の場合,相続欠格にはなりません。

 
 同様に,父親を殺すつもりはなく,怪我をさせるつもりだったような場合(傷害致死)についても,相続欠格とはなりません。
 
 また,相続人が他の相続人を殺した場合も,相続欠格にあたります。
 たとえば,相続人が長男と次男だけの場合,次男がいなくなれば長男は全ての遺産を独り占めできます。
 
 しかし,遺産を独り占めする目的で次男を殺した長男に,遺産を与えるようなことは許すべきではないため,この場合も相続欠格にあたります。

 
 殺人によって,相続欠格に該当するケースは珍しいですが,他にも身近な相続欠格事由はあります(たとえば遺言書を偽造したり,隠したりする行為)。
 遺産を渡したくない人がいる場合,その人が相続欠格に該当すれば,遺産を渡さずに済むことになります。
 
 相続欠格について興味を持たれた方は,一度弁護士にご相談ください。

相続放棄と賃借物件の解約

 相続放棄を行うと,借金などのマイナスの財産を受け継がなくてよくなります。

 その代償として,不動産,預貯金などのプラスの財産も受け継ぐことができなくなります。
 このような特徴を持つ相続放棄という制度ですが,相続放棄を行う場合,注意すべき点があります。
 それは,遺産には一切手を付けてはならないということです。

 たとえば,亡くなった方の預貯金を払い戻して,そのお金で旅行に行ったり,物を買ったりすれば,もう相続放棄はできなくなってしまいます。

 では,亡くなった方が住んでいたマンションなどの,賃借物件を解約することはできるのでしょうか。

 私がよく相談を受ける内容として,「大家さんから家を引き払ってほしいと言われて,どうしたらいいか分からない」といったものがあります。
 確かに,大家さんからすれば,早く部屋を引き払ってもらって,新しい人に部屋を貸したいと思うでしょう。
 そんな大家さんのために,家族の責任として,家の中にあるものを片付け,部屋の契約を解約するくらいは・・・,と考える方も多いです。

 しかし,部屋の解約という行為は,通常「解約する権限を持つ人」でなければできない行為です。
 亡くなった方のご家族が部屋の解約をすれば,それは「解約する権限」を相続した上で,その行使をしたと考えることもできます。

 この点について判断した裁判例はなく,実際どうなるのかは裁判をしてみないとわかりませんが,リスクを避けるために,部屋の解約はするべできはありません。
 他にも,たとえば携帯電話,電気,ガス,水道等の解約はどうなのかという難しい問題があります。

 相続放棄でお悩みの方は,一度弁護士にご相談することをお勧めします。

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戸籍にまつわるお話

 何らかの公的手続きを行う場合,戸籍謄本の提出を求められることがあります。

 戸籍といえば,家族や本籍地が記載されている書類,ということは多くの方が知っていると思いますが,戸籍とはそもそも何のために作られたものなのでしょうか。
 

 実は,現在の戸籍制度は明治時代に始まりました。
 当時の明治政府が,国内の総人口を把握するために戸籍制度を創設したのです。
 
 戸籍に記載される事項は,出生・親子関係・養子関係・婚姻・離婚・死亡等です。
 つまり,その人の生存や死亡,家族関係などが分かるようになっています。

 そのため,一族の戸籍を全て集めれば,明治以降に生まれた一族全員の家系図を作ることが可能です。
 
 では,一族の戸籍を集めるためには,どこの役所に行けばいいのでしょうか。

 戸籍は国ではなく,市区町村が管理しているため,市区町村で戸籍を取得する必要があります。
 しかし,どの市区町村でも戸籍を取得できるわけではなく,本籍地の市区町村でなければ戸籍を取得することはできません。

 
 また,戸籍は一生のうちで,複数個作成されることが多いです。
 たとえば,結婚をすれば,親の戸籍から抜けて,配偶者と新しい戸籍を作ることになります。
 また,法律が変われば,戸籍が新しく作成されます(たとえば,かつて戸籍は手書きで作られていましたが,今はパソコンで管理されています)
 
 そのため,人が生まれてから亡くなるまでの戸籍を全て集めることは,非常に手間がかかる作業です。
 この「人が生まれてから亡くなるまでの戸籍」は,相続の手続きの時に必ず必要になります。
 

 ご家族が亡くなり,不動産の名義を変えたり,預貯金の解約をする場合,戸籍を集めるという作業が,多くの方にとって大変な負担になります。
 

 もし,戸籍を集めることが難しい場合は,一度弁護士にご相談ください。

相続法改正で配偶者の保護が厚くなりました

 相続法が改正され,相続人の中でも,配偶者が厚く保護されるようになりました。
 その具体例の一つとして,持戻し免除の意思表示の推定規定が設けられました。
 難しい言葉が続いてしまったので,具体例を交えてご説明いたします。

 

 たとえば,夫が名古屋に3000万円の価値がある土地と建物を所有していましたが,長年連れ添った妻に名古屋の土地と建物を贈与しました。

 その後,夫は5000万円の預金を残して亡くなり,妻と長男と次男で遺産を分けることになりました。

 

 この場合,妻が生前に贈与を受けた土地と建物は,特別受益に該当し,遺産の一部を先に妻がもらったと考えます。
 そのため,夫が残した遺産は,名古屋の3000万円の土地と建物,及び,預金5000万円を合わせた8000万円となります。

 これを法律どおりに分けると,妻が4000万円,長男と次男が2000万円ずつ相続することになります。

 ただ,妻はすでに3000万円分の生前贈与を受けているので,預金については1000万円しかもらうことができません。

 

 しかし,仮に夫が「妻に土地と建物を渡すが,これは遺産の一部を先に渡したわけではない」と意思表示をしていれば,3000万円の土地と建物については,遺産の一部とは考えません。

 このような意思表示を,特別受益の持戻し免除の意思表示といいます。

 特別受益の持戻し免除の意思表示をすると,先程の例では,遺産は預金5000万円のみであり,これを妻,長男,次男の3名で分け合うことになります。
 その結果,妻は2500万円,長男と次男は1250万円ずつ相続することになります。
 つまり,妻の遺産の取り分が大幅に増えることになります。

 もっとも,持戻しの免除の意思表示といった難しい制度を知っている方は少なく,そのような意思表示を行う方はあまりいないのが現状です。

 そこで,妻に対して居住用の家や土地を贈与した場合は,持戻し免除の意思表示があったと推定するという法律が新たに創設されました。

 

 持戻し免除の意思表示が推定されるためには,20年以上婚姻関係を継続している夫婦であることが必要です。
 他にも,どのような不動産の贈与ならオッケーなのか,いつ行った贈与でもいいのかなど,持戻し免除の意思表示の推定規定を使うためには,知っておくべき知識がたくさんあります。

 今までに夫婦間で不動産の贈与をされた方や,これから贈与を行う予定の方は,一度弁護士にご相談ください。

 名古屋で相続に関するご相談をお考えの方はこちら

特別受益とは

 特別受益という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
 遺産分割の場面では,この特別受益というものを巡って争いが起きることがあります。
 
 たとえば,父Xさんが亡くなり,長男Aさんと長女Bさんが相続人だったとします。
 父Xさんが預金400万円を残して亡くなった場合,長男Aさんと長女Bさんは,200万円ずつ預金を分けることになります。
 しかし,長男Aさんが父Xさんの生前に,200万円の贈与を受けていた場合はどうでしょうか。
 

 遺産である預金400万円を半分ずつ分けた場合,長男Aさんは生前贈与を合わせると合計400万円を取得し,長女Bさんは200万円しか取得していないことになり,不公平な結果になってしまいます。

 このような不公平を解消するための制度が特別受益です。

 上記の例では,長男Aさんが生前に贈与を受けた200万円も,父Xさんの遺産と考え,長男Aさんは遺産の一部を先にもらっただけであると考えます。
 

 つまり,生前贈与の200万円と,父Xさんが亡くなった際の預金400万円の合計である600万円が遺産であると考え,これを長男Aさんと長女Bさんが平等に300万円ずつ分けることになります。
 ただし,長男Aさんはすでに200万円をもらっていることから,長男Aさんは父Xさんが残した400万円のうち,100万円だけ取得することができます。
 他方で,長女Bさんは父Xさんが残した400万円の預金のうち,300万円を取得することになります。
 

 その結果,長男Aさんと長女Bさんは,父Xさんから300万円ずつ受け取ったことになり,相続人間の平等が図られることになります。

 

 もっとも,生前贈与の全てが特別受益に該当するわけではなく,特別受益に該当するかどうかは判例等の法的知識が不可欠です。

 

 また,生前贈与が特別受益に該当するとしても,遺産を一部先に渡したとは考えない場合もあります(持戻し免除)。
 持戻し免除を行えば,上記の例でいうと,長男Aさんへの生前贈与200万円は遺産の一部とは考えず,遺産はあくまで預金400万円のみで,これを長男Aさんと長女Bさんが200万円ずつ分け合うことになります。
 
 特別受益を巡る争いは非常に複雑なので,一度弁護士にご相談ください。

遺言書作成のポイント②

 今までは,遺言書は全て手書きで書かなければならないとされていました。
 しかし,相続法が改正され,手書きをしなくていい部分が認められました。
 具体的には,財産の特定に必要な事項については,手書きでなくても有効な遺言書として認められます。

 たとえば,名古屋の土地を特定の人に相続させたい場合は,登記事項証明書(登記簿)の写しを遺言書に添付すればよいことになります。

 また,特定の人に預貯金を相続させたい場合は,通帳のコピーを遺言書に添付すれば,遺産の特定としては十分です。
 ただし,財産に関する書類のコピーを添付すれば,それでいいというわけではありません。
 財産に関する書類のコピーには,必ず署名と押印が必要です。
 コピーが数枚ある場合は,そのすべてに署名と押印が必要で,両面コピーの場合は両面に署名と押印が必要なので注意が必要です。
 財産に関する書類について,上記では登記事項証明書(登記簿)や通帳のコピーを例にあげましたが,既存の資料をコピーする必要はありません。

 たとえば,パソコンで財産の目録を作って,プリントアウトしたものを遺言書に添付することもできます。
 ただし,あくまで書面である必要があるので,パソコンの中にデータが入っているだけでは,有効な財産目録とは認められません。

 また,ICレコーダーやスマホで録音した音声データも書面ではないため,そのデータが入ったCDやUSBを遺言書と一緒に封筒に入れていても,遺産目録とは認められないため,注意が必要です。

  
遺言書と直接関係がないことですが,私が所属する事務所のホームページの写真が新しくなりましたので,よろしければこちらからご覧ください。