刑事事件における接見

 刑事もののドラマなどで、たまに接見という言葉が出てくることがあります。

 接見とは、犯罪の容疑をかけられた人が逮捕され、弁護士がその方に会いに行くようなことを指します。

 通常、一般の方は、刑事施設にいる方に会うことは難しいのですが、弁護士は、刑事弁護をするために、打合せが必要であるため、法律で接見をする権利が認められています。

 意外かもしれませんが、最初に弁護士が接見に行くときは、弁護士は事件の内容をほとんど知らない状態で刑事施設に行きます。

 事件に関する証拠を見ることもできませんし、どのような経緯で逮捕がされたのか、加害者・被害者の人間関係なども知らない状態で、接見を行います。

 そのため、最初の接見は、逮捕されている方から、たくさんの情報を引き出さなければなりません。

 ところが、なかなか簡単にはいかないこともあります。

 まず、逮捕された方は、慣れない環境や、取り調べなどによって、精神的に参ってしまっている場合が多く、なかなか心を開いてくれないケースも少なくありません。

 また、不利なことは言いたくないという心理から、弁護士にも嘘をついたり、肝心な部分を説明しないといったこともあります。

 そのため、弁護士は、まず逮捕された方に心を開いてもらい、何でも話してもらえるような関係づくりをしなければなりません。

 何でも話す事ができるような関係が築けた後は、事件のことについて、詳細を教えてもらうことになります。

 逮捕された方が、身に覚えがないことで逮捕されたと主張している場合、その潔白を証明し、すぐに釈放されるような活動を目指すことになります。

 具体的には、どういった犯罪の疑いをかけられて逮捕されたのか、被害者の方とはどのような関係か、犯行時刻にどこにいたのかなどを詳細に聴き取り、捜査機関側に早急な釈放を求めます。

 とはいえ、全く身に覚えがないにもかかわらず、逮捕されるということは、そこまで多いケースではなく、最初から犯行を認めているケースの方が多い印象があります。

 たとえば、「万引きしてしまった」、「暴力をふるって、けがをさせてしまった」など、自身の犯行を認めているケースでは、被害者に弁償するといった活動をすることになります。

 このように、最初の接見では、逮捕された方から、できるだけ情報を聴き取り、最適な弁護方針を決めなければなりません。

 もちろん、接見は1回だけとは限らず、必要に応じて、何度も行います。

 逮捕された方にとっては、弁護士は、制限なく会うことができる唯一の存在ですので、弁護士は、その立場を自覚し、真摯に向き合わなければなりません。

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会社の債務整理

 世の中には色々な会社がありますが、多くの会社が、何らかの借り入れをして、その資金で事業を行い、少しずつ借り入れの返済を行っています。

 会社の経営が順調な間は、全く問題ないのですが、会社の経営が悪化し、借り入れの返済が難しくなる場合があります。

 そうなった場合、会社の債務整理というものを検討しなければなりません。

 では、会社の債務整理には、どのような種類があるのでしょうか。

 まず、代表的なものとして、清算型の債務整理があります。 

 これは、いわゆる倒産という言葉から連想されるであろう手続きで、会社の事業をストップし、会社の財産を処分して、債権者に返済を行うという手続きです。

 たとえば、会社が不動産や自動車を所有している場合、これらを売却して、債権者への返済にあてることになります。

 次に、再建型の債務整理と呼ばれるものがあります。

 再建型は、債務返済の負担を軽くすることで、会社を存続させることを目的とした手続きです。

 会社を存続させるため、手続中も経営者は経営権を持ったまま、事業を継続していくことになります。

 ただ、再建型は、手続きが非常に複雑で、裁判所に数百万円以上の費用を納めなければならないなど、ハードルが高い手続でもあります。

 では、清算型の手続きと、再建型の手続きは、どちらを選択すべきでしょうか。

 一般的には、再建型を目指すことができるのであれば、まずは再建型を検討すべきと言われることがあります。

 その理由の1つは、連鎖倒産を防ぐというものです。

 たとえば、A社が倒産してしまった場合、A社に1000万円を請求しようと思っていた取引先のB社は、その1000万円を回収できないということになります。

 B社は、その1000万円で、新しい仕入れをして、お仕事をしようと思っていたのに、その1000万円が入ってこないことで、お仕事ができなくなりB社も倒産するという可能性があります。

 さらに、B社に1000万円請求しようと思っていたC社がいた場合・・・と考えていくと、1つの会社が倒産することで、連鎖的に関係する会社が倒産してしまうということがあり得ます。

 そのため、まずは再建型の検討が必要です。

 では、どのようなケースで、再建型を選択できるのでしょうか。

 まず当然ながら、資金繰りが適切な状況であることが必須です。

 たとえば、商品を仕入れたものの、その仕入れ代金を支払うお金がなかったり、従業員の給料さえ支払えないといった状況であれば、再建型を目指すのは厳しいでしょう。

 次に、返済計画を立て、それを履行できる見込みが必要になります。

 再建型は、破産と違って、債務が全て免除されるような手続きではありません。

 そのため、返済計画を作成し、そのとおりに返済できる見込みが必要です。

 では、資金繰りが厳しかったり、返済計画の履行が厳しい場合は、事業を辞めざるを得ないのかというと、必ずしもそうではありません。

 たとえば、借り入れの返済さえなければ、事業の収支自体は黒字であるという場合、他社に事業譲渡を行うことで、その事業を存続させることができる場合もあります。

 このように、会社の債務整理は、どの手続きを選択するかを、色々な要素から検討しなければなりません。

 会社の債務整理について、ご検討されている方は、弁護士にご相談ください。

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親権者の変更とは

 親が離婚し、子が未成年の場合、父親と母親のどちらかが親権者になります。

 近年では、共同親権制度の創設といった議論がありますが、今の日本の法律では、共同親権は認められていません。

 ところで、日本では、母親の方が親権者になることが圧倒的に多いと言われますが、もし母親が親権者として不適切な対応をしていた場合、どうなるでしょうか。

 たとえば、母親が子に暴力をふるっていたり、ネグレクトをしていたりすると、子の福祉という観点からは、放置することが適切ではない場合もあるでしょう。

 未成年の子が中学生や高校生であれば、自分から父親のもとに逃げるということもできるでしょうが、未成年の子が乳児や幼稚園児だった場合、一刻を争うということもあります。

 そのような場合でも、一度母親を親権者と決めた以上は、親権者を変えることはできないのでしょうか。

 実は、日本の法律では、親権者の変更という手続きが存在します。

 この制度を利用すれば、一度決まった親権者の変更をすることができます。

 法律上は、「子の利益のため必要があると認めるとき」に親権者の変更が可能とされています。

 だれがこの点を判断するかですが、父親や母親が話し合いで決めるといったことはできず、必ず裁判所での手続きを踏む必要があります。

 具体的には、家庭裁判所での調停や審判という手続きが必要です。

 もっとも、母親が子に暴力をふるっており、このままでは子の生命・身体に重大な危険が訪れることが明白な場合、調停や審判を行っている間に、取り返しがつかないことになるかもしれません。

 母親が子を虐待しているようなケースで、父親が親権者の変更を申し立てると、母親による虐待が悪化する可能性があります。

 そういったケースでは、保全処分という制度を利用することが考えられます。

 親権者の変更の保全処分とは、たとえば親権者の職務執行停止と、親権行使の職務代行者の選任が考えられます。

 まず、親権者の職務執行停止によって、親権者の親権を一時的に使えないようにします。

 その上で、職務代行者に選任された者は、一時的に親権者としての権利を行使できるようになるため、上記の例だと父親を親権行使の職務代行者にすることで、父親が親権を行使できるようにします。

 これにより、父親が子をいったん引き取ったうえで、親権者変更の調停や審判を進めることができます。

 ここまで、親権者の変更手続きについて、ご説明しましたが、このような正規の手続きを踏むことなく、子を想うばかりに、子を連れ去ってしまうということがニュースになったりします。

 しかし、親権者ではない者が、親権者のもとから子を連れ去る行為は、犯罪になってしまう可能性があります。

 親権でお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。

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個人事業主の自己破産

 個人事業主の方は、サラリーマンやパートの方と異なり、事業用の借入がある方が多くいらっしゃいます。

 事業用の借入は、金額が大きいため、利息を支払うだけでも負担が大きく、事業が上手くいかなくなれば、返済は難しくなってきてしまいます。

 もし、返済が難しくなってしまった場合は、自己破産を検討しなければなりません。

 しかし、個人事業主の方が自己破産を検討する際は、サラリーマンやパートの方の自己破産とは、やや異なる観点が必要になってきます。

 まず、サラリーマンやパートの方が自己破産をしても、基本的にはお仕事に影響はありません(一部資格制限がつくものはあります)。

 しかし、個人事業主の方は、自己破産によって、事業を廃業しなければならないケースがあります。

 たとえば、特別な機械で、商品を生産している場合、自己破産をすればその機械は、原則として売却し、返済にあてなければなりません。

 つまり、事業をする上で必要な機械がなくなってしまうので、少なくとも同じ事業の継続は難しくなってしまいます。

 また、特別な機械を売却する必要はないケースであっても、事業の継続が困難なこともあります。

 たとえば、取引先に未払のお金が300万円ある場合、自己破産をすると、返済義務がなくなります。

 そうなれば、取引先は、300万円の債権を失うことになるため、仕事上での信頼を失い、今後は取引をしてくれなくなる可能性があります。

 その取引先からしか入手できない商品などがある場合は、事業の継続が困難になります。

 他方、他の取引先から商品を仕入れるといったことができるのであれば、事業の継続は可能な場合もあります。

 また、個人事業主の方が自己破産をする場合、注意が必要なのは、管財人の存在です。

 個人事業主の方は、事業用のお金と、生活費とがあまり分けて管理されていない場合が多いため、原則として管財人が選任され、管財人の監督下で手続きを進めることになります。

 そのため、管財人に支払うお金を用意しなければなりません。

 また、事業用に借りている物件がある場合、あらかじめ引渡しをしておかないと、管財人が代わりに引渡し業務を行うことになり、管財人に支払うお金が増えてしまいます。

 よって、可能な限り、裁判所に書類を提出する前に、事業用に借りている物件は、引渡しをしておく必要があります。

 このように、個人事業主の方が、自己破産を行う場合、サラリーマンの方やパートの方とは異なった観点から、手続きを進めていく必要があります。

 個人事業主の方で、自己破産を検討されている方は、まず弁護士にご相談ください。

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会社が倒産する際の経営者保証ガイドライン

 多くの中小企業は、事業用資金を借入れ、そのお金を活用して、事業を行います。

 借り入れの返済が順調であれば、何の問題もないのですが、経営状態が悪化し、返済ができなくなってしまうという事態もあります。

 もし、従業員のお給料や、取引先への支払いも含め、会社のキャッシュが尽きてしまった場合は、会社は倒産せざるを得なくなります。

 また、中小企業が借り入れをする際は、多くのケースで社長が連帯保証人になっています。

 そのようなケースでは、社長も同時に自己破産をせざるを得ないケースが多いでしょう。

 しかし、会社の倒産=社長の自己破産というのは、社長にとって酷だという意見も多かったため、救済措置として、経営者保証ガイドラインというものが設けられています。

 経営者保証ガイドラインを利用すれば、社長が一定の財産を手元に残した上で、保証債務を失くすことができる場合があります。

 では、自己破産と、経営者保証ガイドラインには、どのような違いがあるのでしょうか。

 まず、手続きの対象になる債権者に違いがあります。

 自己破産では、全債権者が手続きの対象ですが、経営者保証ガイドラインでは、原則として保証債権者である金融機関が対象です。

 次に、経営者ガイドラインを使うためには、主債務者が中小企業であること、主債務者と保証人が弁済に誠実であることといった条件がつきます。

 また、大きな違いとして、自己破産は債権者の同意なく利用できる制度ですが、経営者保証ガイドラインは、債権者の同意がなければ、保証債務の免除はされません。

 さらに、自己破産をすると、債務者はいわゆるブラックリストに登録されますが、経営者保証ガイドラインを利用すれば、ブラックリストに登録されません。

 このように、自己破産と経営者保証ガイドラインでは、手続きの方法や利用条件が異なりますが、どのようなケースで、どちらを選択するのかは、様々な事情を考慮して、決める必要があります。

 たとえば、社長が保証債務以外にも、個人で多額の借入をしている場合、その借入は経営者保証ガイドラインの対象外の債務であるため、経営者保証ガイドラインを利用しても、社長は個人の借入を返済しなければなりません。

 そのため、社長個人が多額の借入があり、その返済が難しい場合は、自己破産を選択すべきでしょう。

 また、保証債務の債権者が、保証債務の免除に応じない姿勢を示している場合も、自己破産を視野に入れる必要があります。

 他にも、色々な要素を考慮した上で、どのような手続きを取るべきかを検討する必要がありますので、経営者保証ガイドラインの利用を検討している方は、弁護士にご相談ください。

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自己破産と資格制限

 お仕事の中には、一定の資格が必要なものがあります。

 たとえば、弁護士のお仕事は、弁護士の資格がなければできず、もし資格がない状態で弁護士の業務を行えば、罰せられる可能性があります。

 自己破産をした場合、突然お仕事がクビになるようなことはありませんが、一定の資格は、その使用を制限されてしまうことがあり、その結果、一定期間はお仕事ができなくなってしまうことがあります。

 たとえば、弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、不動産鑑定士などの士業系の資格は、自己破産によって、資格の制限を受けます。

 また、警備員、生命保険募集人、損害保険代理店、宅地建物取引業者、建設業、貸銀賞なども、自己破産による資格制限があります。

 また、後見人のように、誰かの財産を管理する立場にある場合も、その資格が制限されます。

 そのため、たとえば警備員のお仕事をしている方が自己破産をする場合、警備員のお仕事を続けることが難しくなる場合があるため、場合によっては、自己破産以外の債務整理の方法を検討する場面もあります。

 しかし、ずっと警備員のお仕事ができなくなるわけではなく、自己破産の手続きが始まってから、債務の返済義務が免除される「免責決定」が出るまでの間のみ、資格が制限されるにとどまります。

 資格の制限を受けている間は、警備業務以外の業務に配置換えをしてもらったり、休職するなどといった対応が考えられますので、お勤め先の会社に相談することも検討が必要です。

 また、会社の取締役をしている方が自己破産をする場合、取締役の地位を失うことになっています。

 しかし、再度会社の取締役に就任することは制限されていないため、いったん取締役の地位を失ってから、株主総会で再度取締役に就任することも可能です。

 最後に、資格の制限ではありませんが、自己破産をすると、信用情報機関にその旨が登録されます。

 信用情報機関とは、全国銀行個人信用情報センター(KSC)、日本信用情報機構(JICC)、シー・アイ・シー(CIC)の3つがあり、自己破産をした場合、これらの機関に情報が登録され、その結果、新たに借り入れをしたり、クレジットカードを作成したりといったことが難しくなります。

 とはいえ、いつまでも新たな借り入れや、クレジットカードの作成ができないわけではなく、免責決定を受けてから5年から10年程経過すれば、信用情報機関のデータは消えることが多いです。

 信用情報機関のデータが消えれば、新たな借り入れや、クレジットカードの作成が可能になります。

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個人再生の流れ

 個人再生の手続きの流れは、裁判所によって大きく運用が異なります。

 私は大阪の弁護士なので、大阪の裁判所の運用について、簡単にご説明したいと思います。

 まず、個人再生のスタートは、地方裁判所に、個人再生の申立書類を提出することから始まります。

 ただし、いきなり個人再生の申立書のみを、裁判所に提出するのではなく、「個人再生をするための要件を満たしていること」が分かる資料も添付しなければなりません。

 たとえば、債務がどれくらいあるのか、預貯金などの資産がどれくらいあるのかといった資料が必要になります。

 個人再生の申立書類を裁判所に提出した後、おおよそ2週間程度で、個人再生の手続きが始まるかどうかが決まります(もし、個人再生の要件を満たしていないと判断されると、ここで手続きが終わってしまいます)。

 次に、個人再生を申し立てる際に、債権者の一覧表を添付しているので、裁判所は、その債権者に対し、債権の届出をするよう、促すことになります。

 債権者から、届出があった後、当該債権に対し異議が出なければ、個人再生の申立人は、「再生計画案」を提出しなければなりません。

 「再生計画案」とは、今後、誰に、どれだけの返済を行っていくかの計画表を指します。

 「再生計画案」は、自由に決めていいわけではなく、一定のルールがあります。

 たとえば、最低弁済額という、『最低でも、これだけは返済しなければならない』という基準が設けられているため、そういった条件をクリアした「再生計画案」を作成する必要があります。

 債権者は、「再生計画案」を見て、個人再生に賛成するか、反対するかを決めることになるため、慎重に計画を立てる必要があります。

 たとえば、収入状況から見て、およそ返済が困難だと思われてしまうような「再生計画案」を出すと、債権者が個人再生に反対する可能性があります。

 もし、法律で定められた数の同意が得られなければ、個人再生は認められなくなってしまいます。

 そのため、個人再生の手続き中に、大きく収入が減ってしまったり、収入が減っていなくても、ギャンブルなどにお金をたくさん使ってしまうと、債権者の同意は難しくなってきます。

 仮に、問題無く手続きが進めば、裁判所が個人再生の認可決定をします。

 この認可決定を受けた後、個人再生を申し立てた人は、「再生計画」に従って、債権者に返済をしていくことになります。

 具体的には、3年から5年かけて、債務を返済していくことになります。

 

 

 

 

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小規模個人再生と給与所得者等再生

 債務整理を検討したことがある方は、小規模個人再生と、給与所得者等再生という言葉を、聞いたことがあるかもしれません。

 小規模個人再生は、債務を減額した上で、分割払いをしていく制度ですが、給与所得者等再生は、その督促という位置づけになっています。

 小規模個人再生と、給与所得者等再生では、大きく分けて、3つの違いがあります。

 1つ目の違いは、給与所得者等再生では、収入状況について、特別な条件が付いている点です。

 法律上は、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことが必要です(民事再生法239条1項)。

 2つ目の違いは、最低弁済額の計算方法です。

 小規模個人再生では、債権額によって、おおよそ100万円から500万円の返済が必要になるのに対し、給与所得者等再生では、生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上の返済が必要という条件がつきます。

 3つ目の違いは、小規模個人再生は、債権者の書面決議が必要ですが、給与所得者等再生では、書面決議が不要とされています。

 では、どのようなケースで、給与所得者等再生の向き・不向きが分かるでしょうか。

 まず、独身の方は、給与所得者等再生は、不向きなことが多いと言えます。

 その理由は、独身の方は、扶養家族がいないため、生活保護基準によれば、可処分所得が多くなり、最低弁済額が高めになってしまうためです。

 次に、過去2年間の間で、収入状況に大きな変動がない方は、給与者所得等再生に向いています。

 たとえば、公務員や会社員など、安定的に給与所得がある方は、給与者所得等再生を行いやすいと言えるでしょう。

 では、個人事業主のように、毎月の収入状況が安定しないこともある方は、給与者所得等再生はできないのかというと、そういうわけではありません。

 たとえば、個人事業主の方であっても、特定の建設業者から、安定的に下請けを受けることができている場合、給与者等所得再生が可能な場合があります。

 さらに、何らかの理由で、債権者が小規模個人再生に反対してくることが予想される場合は、積極的に給与者所得者等を検討すべきでしょう。

 なぜなら、給与所得者等再生では、書面決議が不要になるからです。

 以上のように、小規模個人再生を選択するか、給与所得者等再生を選択するかは、諸事情を総合的に検討した上で、判断しなければなりません。

 かなり専門的なノウハウが求められるため、債務整理を検討している方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

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個人再生で重要な「安定的な収入」

 個人再生をすると、借金の大幅な減額が可能になるため、借金の返済で困った場合は、個人再生を検討してみる価値があります。

 まず、個人再生は、借金を減額した上で、残った借金を分割払いしていく制度なので、安定的な収入がある場合に、適した制度と言えます。

 もし、収入の見込みがないような場合は、自己破産の検討をすることになります。

 次に、「マイホームは残したい」というような場合は、個人再生が適しています。

 自己破産をすることになれば、基本的にマイホームを売却し、借金の返済にあてなければなりませんが、個人再生を使えば、住宅ローンが残っていても、マイホームを残すことが可能です。

 ただし、マイホームを残したい場合、住宅ローンは、個人再生後も全額返済が必要になります。

 そういった観点からも、個人再生をする上では、やはり安定的な収入というのは、必須になります。

 では、どういったケースなら「安定的な収入がある」とみなされるのでしょうか。

 まず、会社員や公務員など、毎月、安定的にお給料がもらえるようなケースだと、「安定的な収入がある」ということになるでしょう。

 では、個人事業主の方は、どうでしょうか。

 個人事業主の方は、その時々の状況によって、収入にばらつきが出てしまうので、「安定的」という言葉からは、やや遠いようにも思えます。

 しかし、ここでいう「安定的」とは、「借金の返済を継続できるか」という意味あいが強いため、仮に収入にばらつきがあっても、借金の返済に十分な収入を確保できる状態であれば、「安定的な収入がある」となりやすいでしょう。

 次に、アルバイトやパートタイマーなどはどうでしょうか。

 アルバイトやパートタイマーの場合、会社員や公務員と比較すると、「ずっとその仕事を継続する可能性」や、「シフトにたくさん入ったかどうかで収入が変わる可能性」などが考慮されます。

 たとえば、長年、同じ職場で働いていて、毎月の収入にそれほど差がないようなケースであれば、「安定的な収入がある状態」と評価できるでしょう。

 他方、頻繁に職場を変えていたり、生活ギリギリの収入しか得られない状態だと、借金の返済が継続できないという評価がなされる可能性が高まります。

 このように、個人再生をする上で重要な「安定的な収入」は、個人再生をする方の職種、勤務実績、就労意欲、年齢など、諸般の事情を考慮した上で、判断されます。

 どういったケースで、「安定的な収入」があると言えるのかは、一度弁護士に相談するとよいでしょう。

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相続分の譲渡と相続分の放棄

 たとえば、お父さんが亡くなり、相続人として、お母さん、長男、次男がいたとします。

 それぞれの法定相続分は、お母さんが2分の1、長男と二男は4分の1ずつです。

 このケースで、長男が「自分の相続分を、お父さんと仲が良かった友達のAさんにあげたい」と思った場合、相続分の譲渡という方法で、その希望を実現することができます。

 相続分の譲渡とは、簡単に言うと、相続人としての権利を譲り渡すことを指します。

 そのため、今回の例だと、Aさんは、相続人ではありませんが、長男から相続分を譲り受けたので、相続人と同じように、遺産分割協議に参加することができるようになります。

 では、この相続分の譲渡は、どのような方法で行えばいいのでしょうか。

 実は、相続分の譲渡の方法は、法律で定められていません。

 相続分を譲渡したい人と、譲り受けたい人が、その合意をすれば、相続分の譲渡が可能です。

 合意の方法は、書面でもいいですし、口頭でも有効ですが、その後の色々な相続手続のことを考えると、書面化し、実印と印鑑登録証明書の添付が必須と言えるでしょう。

 また、相続分の譲渡は、他の相続人の同意なく可能です。

 先ほどの例だと、長男はお母さんや次男の意向とは関係なく、Aさんに相続分の譲渡ができます。

 また、相続分の譲渡は、有償・無償を問いません。

 たとえば、長男がAさんに、1000万円で相続分を譲渡してもいいし、反対にタダで相続分を譲渡してもいいとされています(ただし、贈与税の問題は考慮が必要です)。

 他方、似たような言葉として、相続分の放棄というものがあります。

 先ほどの例で言うと、長男が、遺産を受け継ぎたくないと思い、お母さんや次男に「相続分の放棄をする」と宣言するようなケースです。

 この相続分の放棄は、相続放棄とは意味が違う点に注意が必要です。

 相続分の放棄は、相続人としての地位を維持したまま、自分が持つ相続の権利を放棄することなのでで、借金などのマイナスの財産は、そのまま受け継ぐことになります。

 他方、相続放棄は、相続人としての地位を失うための手続なので、プラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も受け継がないという制度です。

 また、相続分の放棄は、あまりメジャーな制度ではないため、相続分の放棄をしても、不動産や預貯金の名義変更ができない場合もあるため、手続選択は慎重に行う必要があります。

 相続分の譲渡、相続分の放棄、相続放棄など、相続に関する手続きは、似たような言葉であっても、全く意味合いが異なるものがありますので、相続の手続きをする際は弁護士にご相談ください。

 

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