個人再生の流れ

 個人再生の手続きの流れは、裁判所によって大きく運用が異なります。

 私は大阪の弁護士なので、大阪の裁判所の運用について、簡単にご説明したいと思います。

 まず、個人再生のスタートは、地方裁判所に、個人再生の申立書類を提出することから始まります。

 ただし、いきなり個人再生の申立書のみを、裁判所に提出するのではなく、「個人再生をするための要件を満たしていること」が分かる資料も添付しなければなりません。

 たとえば、債務がどれくらいあるのか、預貯金などの資産がどれくらいあるのかといった資料が必要になります。

 個人再生の申立書類を裁判所に提出した後、おおよそ2週間程度で、個人再生の手続きが始まるかどうかが決まります(もし、個人再生の要件を満たしていないと判断されると、ここで手続きが終わってしまいます)。

 次に、個人再生を申し立てる際に、債権者の一覧表を添付しているので、裁判所は、その債権者に対し、債権の届出をするよう、促すことになります。

 債権者から、届出があった後、当該債権に対し異議が出なければ、個人再生の申立人は、「再生計画案」を提出しなければなりません。

 「再生計画案」とは、今後、誰に、どれだけの返済を行っていくかの計画表を指します。

 「再生計画案」は、自由に決めていいわけではなく、一定のルールがあります。

 たとえば、最低弁済額という、『最低でも、これだけは返済しなければならない』という基準が設けられているため、そういった条件をクリアした「再生計画案」を作成する必要があります。

 債権者は、「再生計画案」を見て、個人再生に賛成するか、反対するかを決めることになるため、慎重に計画を立てる必要があります。

 たとえば、収入状況から見て、およそ返済が困難だと思われてしまうような「再生計画案」を出すと、債権者が個人再生に反対する可能性があります。

 もし、法律で定められた数の同意が得られなければ、個人再生は認められなくなってしまいます。

 そのため、個人再生の手続き中に、大きく収入が減ってしまったり、収入が減っていなくても、ギャンブルなどにお金をたくさん使ってしまうと、債権者の同意は難しくなってきます。

 仮に、問題無く手続きが進めば、裁判所が個人再生の認可決定をします。

 この認可決定を受けた後、個人再生を申し立てた人は、「再生計画」に従って、債権者に返済をしていくことになります。

 具体的には、3年から5年かけて、債務を返済していくことになります。

 

 

 

 

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小規模個人再生と給与所得者等再生

 債務整理を検討したことがある方は、小規模個人再生と、給与所得者等再生という言葉を、聞いたことがあるかもしれません。

 小規模個人再生は、債務を減額した上で、分割払いをしていく制度ですが、給与所得者等再生は、その督促という位置づけになっています。

 小規模個人再生と、給与所得者等再生では、大きく分けて、3つの違いがあります。

 1つ目の違いは、給与所得者等再生では、収入状況について、特別な条件が付いている点です。

 法律上は、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことが必要です(民事再生法239条1項)。

 2つ目の違いは、最低弁済額の計算方法です。

 小規模個人再生では、債権額によって、おおよそ100万円から500万円の返済が必要になるのに対し、給与所得者等再生では、生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上の返済が必要という条件がつきます。

 3つ目の違いは、小規模個人再生は、債権者の書面決議が必要ですが、給与所得者等再生では、書面決議が不要とされています。

 では、どのようなケースで、給与所得者等再生の向き・不向きが分かるでしょうか。

 まず、独身の方は、給与所得者等再生は、不向きなことが多いと言えます。

 その理由は、独身の方は、扶養家族がいないため、生活保護基準によれば、可処分所得が多くなり、最低弁済額が高めになってしまうためです。

 次に、過去2年間の間で、収入状況に大きな変動がない方は、給与者所得等再生に向いています。

 たとえば、公務員や会社員など、安定的に給与所得がある方は、給与者所得等再生を行いやすいと言えるでしょう。

 では、個人事業主のように、毎月の収入状況が安定しないこともある方は、給与者所得等再生はできないのかというと、そういうわけではありません。

 たとえば、個人事業主の方であっても、特定の建設業者から、安定的に下請けを受けることができている場合、給与者等所得再生が可能な場合があります。

 さらに、何らかの理由で、債権者が小規模個人再生に反対してくることが予想される場合は、積極的に給与者所得者等を検討すべきでしょう。

 なぜなら、給与所得者等再生では、書面決議が不要になるからです。

 以上のように、小規模個人再生を選択するか、給与所得者等再生を選択するかは、諸事情を総合的に検討した上で、判断しなければなりません。

 かなり専門的なノウハウが求められるため、債務整理を検討している方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

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個人再生で重要な「安定的な収入」

 個人再生をすると、借金の大幅な減額が可能になるため、借金の返済で困った場合は、個人再生を検討してみる価値があります。

 まず、個人再生は、借金を減額した上で、残った借金を分割払いしていく制度なので、安定的な収入がある場合に、適した制度と言えます。

 もし、収入の見込みがないような場合は、自己破産の検討をすることになります。

 次に、「マイホームは残したい」というような場合は、個人再生が適しています。

 自己破産をすることになれば、基本的にマイホームを売却し、借金の返済にあてなければなりませんが、個人再生を使えば、住宅ローンが残っていても、マイホームを残すことが可能です。

 ただし、マイホームを残したい場合、住宅ローンは、個人再生後も全額返済が必要になります。

 そういった観点からも、個人再生をする上では、やはり安定的な収入というのは、必須になります。

 では、どういったケースなら「安定的な収入がある」とみなされるのでしょうか。

 まず、会社員や公務員など、毎月、安定的にお給料がもらえるようなケースだと、「安定的な収入がある」ということになるでしょう。

 では、個人事業主の方は、どうでしょうか。

 個人事業主の方は、その時々の状況によって、収入にばらつきが出てしまうので、「安定的」という言葉からは、やや遠いようにも思えます。

 しかし、ここでいう「安定的」とは、「借金の返済を継続できるか」という意味あいが強いため、仮に収入にばらつきがあっても、借金の返済に十分な収入を確保できる状態であれば、「安定的な収入がある」となりやすいでしょう。

 次に、アルバイトやパートタイマーなどはどうでしょうか。

 アルバイトやパートタイマーの場合、会社員や公務員と比較すると、「ずっとその仕事を継続する可能性」や、「シフトにたくさん入ったかどうかで収入が変わる可能性」などが考慮されます。

 たとえば、長年、同じ職場で働いていて、毎月の収入にそれほど差がないようなケースであれば、「安定的な収入がある状態」と評価できるでしょう。

 他方、頻繁に職場を変えていたり、生活ギリギリの収入しか得られない状態だと、借金の返済が継続できないという評価がなされる可能性が高まります。

 このように、個人再生をする上で重要な「安定的な収入」は、個人再生をする方の職種、勤務実績、就労意欲、年齢など、諸般の事情を考慮した上で、判断されます。

 どういったケースで、「安定的な収入」があると言えるのかは、一度弁護士に相談するとよいでしょう。

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相続分の譲渡と相続分の放棄

 たとえば、お父さんが亡くなり、相続人として、お母さん、長男、次男がいたとします。

 それぞれの法定相続分は、お母さんが2分の1、長男と二男は4分の1ずつです。

 このケースで、長男が「自分の相続分を、お父さんと仲が良かった友達のAさんにあげたい」と思った場合、相続分の譲渡という方法で、その希望を実現することができます。

 相続分の譲渡とは、簡単に言うと、相続人としての権利を譲り渡すことを指します。

 そのため、今回の例だと、Aさんは、相続人ではありませんが、長男から相続分を譲り受けたので、相続人と同じように、遺産分割協議に参加することができるようになります。

 では、この相続分の譲渡は、どのような方法で行えばいいのでしょうか。

 実は、相続分の譲渡の方法は、法律で定められていません。

 相続分を譲渡したい人と、譲り受けたい人が、その合意をすれば、相続分の譲渡が可能です。

 合意の方法は、書面でもいいですし、口頭でも有効ですが、その後の色々な相続手続のことを考えると、書面化し、実印と印鑑登録証明書の添付が必須と言えるでしょう。

 また、相続分の譲渡は、他の相続人の同意なく可能です。

 先ほどの例だと、長男はお母さんや次男の意向とは関係なく、Aさんに相続分の譲渡ができます。

 また、相続分の譲渡は、有償・無償を問いません。

 たとえば、長男がAさんに、1000万円で相続分を譲渡してもいいし、反対にタダで相続分を譲渡してもいいとされています(ただし、贈与税の問題は考慮が必要です)。

 他方、似たような言葉として、相続分の放棄というものがあります。

 先ほどの例で言うと、長男が、遺産を受け継ぎたくないと思い、お母さんや次男に「相続分の放棄をする」と宣言するようなケースです。

 この相続分の放棄は、相続放棄とは意味が違う点に注意が必要です。

 相続分の放棄は、相続人としての地位を維持したまま、自分が持つ相続の権利を放棄することなのでで、借金などのマイナスの財産は、そのまま受け継ぐことになります。

 他方、相続放棄は、相続人としての地位を失うための手続なので、プラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も受け継がないという制度です。

 また、相続分の放棄は、あまりメジャーな制度ではないため、相続分の放棄をしても、不動産や預貯金の名義変更ができない場合もあるため、手続選択は慎重に行う必要があります。

 相続分の譲渡、相続分の放棄、相続放棄など、相続に関する手続きは、似たような言葉であっても、全く意味合いが異なるものがありますので、相続の手続きをする際は弁護士にご相談ください。

 

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法定相続分と指定相続分

 人が亡くなると、遺産は誰のものになるのでしょうか。

 遺言書などがない場合、遺産はいったん、相続人の共有物になると考えられています。

 たとえば、お母さんが亡くなり、相続人としてお父さん、長女、二女がいる場合、お母さんの遺産は、長女と二女が一時的に共有している状態になります。

 このとき、「相続人3名は、どのような割合で、遺産を所有していると言えるか」が問題になりますが、このような持分割合は相続分と呼ばれています。

 法定相続分とは、法律で定められた相続分の事で、先程の例だとお父さんが2分の1、長女と二女がそれぞれ4分の1ずつの権利を持つことになります。

 他方、民法では、指定相続分と呼ばれる概念もあります。

 たとえば、お母さんが、遺言書を作成し、「お父さん、長女、二女の相続分は3分の1ずつにする」旨の記載をしておくと、法定相続分とは異なった持分割合を実現できます。

 また、この相続分の指定は、第三者に委ねることもできるとされています。

 たとえば、先程の例で「お父さん、長女、次女の相続分をどうするのかの判断は、大阪太郎弁護士に委ねます」という遺言書を作成した場合、大阪太郎弁護士が、相続分の割合を決める権限を持ちます。

 では、仮に「お父さん、長女、次女の相続分をどうするのかの判断は、お父さんに委ねます」という内容の遺言書の場合は、どうなるでしょうか。

 この内容だと、お父さんが、ついつい自分の取り分を多くしたいという誘惑にかられてしまう可能性があります。

 そのため、こういった内容だと、相続分の指定の委託は、無効になるという見解が有力です。

 他方で、遺言は、あくまでも遺言者の最終意思が尊重されるべきという観点から、こういった内容の相続分の指定も有効だという見解もあります。

 では、さらに珍しい事例として、一部だけ相続分を指定した場合は、どうでしょうか。

 たとえば、お母さんが「長女の相続分は5分の2とする」旨の遺言書を作成した場合、お父さんと二女の相続分は、どうなるでしょうか。

 この場合、「配偶者の相続分は、本来2分の1ある以上、その分は確保すべきだ」という立場の考えからすると、お父さんの相続分は2分の1で、二女の相続分は10分の1になります。

 他方、「法律の根拠なく、配偶者だけを強く保護する理由がない」という立場の考えからすると、お父さんの相続分は5分の2、二女の相続分は5分の1になります。

 このように、法定相続分と、指定相続分は色々な考え方があり、はっきりと法律に記載がないところもあるため、非常に複雑な領域です。

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相続人の種類

 「相続人が誰か」ということを質問されたとき、最初に誰を思い浮かべるでしょうか。

 「配偶者だ」と答える方がいれば、「子どもだ」と答える方もいると思います。

 実は、法律的には、相続人は大きく2種類あると言われています。

 まず1つ目は、血族相続人と呼ばれているものです。

 血族、という言葉からイメージできるとおり、血がつながった家族が、相続人になるのが原則ということになります(もちろん、養子縁組をすれば、血のつながりはなくとも相続人になることができます。)。

 ただし、血がつながっていれば、誰でも相続人になれるわけではありません。

 相続人には、優先順位が定められており、最優先の相続権を持つのは、子どもです。

 たとえば、Aさんが亡くなり、Aさんに長男と二男がいる場合、長男と二男は、最優先の権利を持つ相続人です(仮に二男が先に亡くなっていて、二男に子がいる場合、その子が相続権を持ちます)。

 では、Aさんに子どもがいなかった場合は、どうなるでしょうか。

 この場合、第2順位の相続権を持つ、Aさんの親が相続人になります(親がいない場合は、祖父母など、さらに上の世代が、相続権を持ちます)。

 さらに、Aさんの親もいないような場合は、第3順位の相続人である、Aさんの兄弟姉妹が相続権を持ちます(兄弟姉妹が亡くなっていて、その子がいる場合は、その子が相続権を持ちます。)。

 血族相続人は、この第3順位までの人だけが含まれており、それ以上遠縁の親族は、相続人ではありません。

 2つ目の相続人として、配偶者相続人があります。

 配偶者は、血族ではなく、養子縁組もしていませんが、最優先の相続権を持ちます。

 では、いわゆる事実婚関係の場合、相続権はどうなるでしょうか。

 たとえば、XさんとYさんが、何十年も夫婦同然の生活をしていたものの、婚姻届けは出していなかったという状態で、Xさんが亡くなった場合を考えてみます。

 現在の日本の法律では、事実婚関係では、相続権を認めていないため、Yさんは、相続権がありません。

 そのため、Yさんに財産を残しておきたいなら、Xさんは遺言書を作成しておく必要があります。

 もっとも、遺言書が必要なのは、こういった事実婚関係の場合だけではありません。

 たとえば、子どもがいない夫婦のうち、夫が亡くなると、相続人は、妻と、夫の親(または夫の兄弟姉妹・甥姪)ということになり、遺言書が無いと、妻は、夫側の親族と、遺産の分け方を協議しなければなりません。

 また、子どもがいる夫婦であっても、遺産の分け方をめぐって、もめてしまう例は数多くあります。

 そのため、遺言書が必要かどうか、一度弁護士に相談することが大切です。

 

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代襲相続人になるのは誰か

 基本的に、ご相続は「年齢順」に発生することが多いため、おじいさん、お父さん、子ども、孫という順番にご相続が発生することが多いでしょう。

 しかし、実際には、必ずしも年齢順になるとは限りません。

 病気や、事故などによって、若い世代の方が先に亡くなってしまうこともあり得ます。

 では、仮に若い世代の方が先に亡くなってしまった場合、相続権はどのように移っていくのでしょうか。

 たとえば、祖父Aさん、父Bさん、子Cさん、という家族で考えてみます。

 最初に父Bさんが亡くなった場合、第1順位の相続人である子Cさんが、父Bさんの相続権を持ちます。

 その次に、祖父Aさんが亡くなった場合は、どうなるでしょうか。

 本来なら、祖父Aさんにとって、第1順位の相続人である父Bさんが、すでに亡くなっているため、子Cさん(祖父Aさんにとっての孫)が、祖父Aさんの相続権を持つことになります。

 このように、本来相続人となるべき人が、相続開始前に亡くなってしまった場合などに、その下の世代が相続権を持つことを「代襲相続」といいます。

 ただ、代襲相続は、「本来相続人となるべき人が、相続開始前に亡くなってしまった場合」だけに限りません。

 「本来相続人となるべき人が、存命ではあるものの、何らかの理由で相続権を失った場合」も、代襲相続が発生します(ただし、相続放棄は除きます)。

 たとえば、先程の例で、父Bさんが存命中に、祖父Aさんを殺害してしまった場合、父Bは第1順位の相続人ではありますが、相続権を失います(これを相続欠格といいます)。

 この場合、子Cさん(祖父Aさんにとっての孫)が、祖父Aさんの相続権を持ちます。

 では、代襲相続が発生するためには、他にどのような条件が必要なのでしょうか。

 まず、相続権を失った人と、その人の代わりに相続する人が、親子である必要があります。

 先ほどの例だと、父Bさんと子Cさんは、親子なので、この条件を満たすことになります。

 なお、父Bさんが相続権を失った時、子Cさんが胎児だった場合であっても、子Cさんは祖父Aさんの相続人になることができます。

 次に、代わりに相続する人が、亡くなる人の直系の子孫である必要があります。

 たとえば、先程の例で、父Bさんが、祖父Aさんの養子だった場合を検討します。

 養子縁組は、養子縁組をした2人の間にだけ、効力が及ぶため、父Bさんが養子になった時に、すでに子Cさんが存在した場合、父Bさんが祖父Aさんと養子縁組をしても、子Cさんと祖父Aさんは無関係の他人ということになります。

 そのため、父Bさんが祖父Aさんの相続権を失っても、子Cさんは、祖父Aさんの相続権を持つことはありません。

 他方、父Bさんと祖父Aさんが養子縁組をした後に、子Cさんが生まれた場合は、子Cさんが代襲相続する権利を持ちます。

 このように、代襲相続の場面では、どんなときに、誰が相続権を持つのかは、非常に複雑です。

 代襲相続が起きる場合は、誰が相続権を持つのかについて、弁護士に相談することをお勧めします。

 

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親と子が同時に亡くなった場合、遺産はどうなるか

 たとえば、おばあさん、お父さん、お母さん、長男という4人家族の場合の相続を考えてみましょう。

 仮に、お父さんが亡くなれば、相続人はお母さんと長男です(おばあさんは相続人ではありません)。

 お母さんと長男は、それぞれお父さんの遺産の2分の1を取得する権利を持ちます。

 では、仮にお父さんと長男が自動車に乗っていて、交通事故に遭った場合、どのような相続が起きるでしょうか。

 まず、お父さんが先に亡くなり、その数分後に長男が亡くなった場合を考えます。

 お父さんが亡くなったことで、お母さんと長男が、いったん相続人として遺産の権利を取得します。

 その数分後、長男が亡くなったことで、長男の相続人であるお母さんが、長男の遺産を全て取得することになります。

 他方、もし先に長男が亡くなって、その数分後にお父さんが亡くなった場合はどうなるでしょうか。

 この場合、長男の相続人であるお父さんとお母さんが、長男の遺産を半分ずつ相続することになります。

 その数分後、お父さんが亡くなると、お父さんにとっての相続人は、お母さんとおばあさんなので、お母さんがお父さんの遺産の3分の2を取得し、おばあさんはお父さんの遺産の3分の1を取得します。

 では、お父さんと長男が、同時に亡くなった場合はどうなるでしょうか。

 日本の法律では、「生きている人だけが、相続人になることができる」という決まりになっています。

 そのため、お父さんが亡くなった際、長男はすでに存在しない人という扱いになり、お父さんにとっての相続人はお母さんとおばあさんということになります。

 次に、お父さんと長男がかなり近い時間で亡くなったものの、どちらが先に亡くなったのかははっきりしない、という場合はどうでしょうか。

 このようなケースで、ご遺体の解剖などをして、どちらが先に亡くなったのかを1秒単位ではっきりさせる、などということは非現実的です。

 そこで、こいったケースでは、「同時に亡くなった」とみなすことになります。

 

 最後に、お父さんと長男が同時に亡くなり、長男には子がいた、というケースだとどうでしょうか。

 この場合は、長男については、長男の子が唯一の相続人なので、長男の子が長男の遺産を取得します。

 他方、お父さんにとっての相続人は、おかあさんと、孫である長男の子ということになります。

 このように、誰が誰の遺産を相続するかという点は、家族構成や、亡くなった順番などで大きく変わります。

 複雑な事情がある場合、どのように相続手続を進めるべきかは、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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法律上の「人の死亡」は、どの時点なのか

 人が死亡すると、法律上は相続が発生したことになります。

 相続が発生すると、法的には様々な現象が起きます。

 たとえば、お父さんが亡くなって、相続人が長男と二男という例を考えてみます。

 お父さんが亡くなると、お父さんは「財産を所有する権利」を失います。

 そのため、お父さんが生前に自宅の不動産を所有していたり、預貯金口座を持っていたとしても、お父さんが亡くなると同時に、お父さんのものではなくなります。

 その代わり、お父さんが所有していた財産の権利は、相続人の長男と二男に受け継がれることになります。

 では、ここで疑問になるのが、「いつ人は死んだことになるのか」という点です。

 もちろん、多くの場合は、生物学上の死をもって、死亡したということになりますし、弁護士もその前提で実務を行っています。

 しかし、「生物学上の死を確認できない限り、人は死亡しない」ということになると、困ったことが起きるケースがあります。

 たとえば、遭難などで行方不明になっている方です。

 行方不明になり、住民票も存在しないような場合だと、その人が生きているのかどうか判断がつきません。

 行方不明の方の生物学上の死を確認することは、非常に困難です。

 それにもかかわらず、行方不明の方がずっと生きているということにすると、仮にその方が戸籍上200歳になっても、法律上は存命ということになります。

 そこで、「一定の条件を満たした場合、その人は法律上死亡したことにする」、という法律があります。

 まず、特定の方が行方不明になり、7年間生死が不明の場合、裁判所に「この人は亡くなったということにして欲しい」という申立てができます。

 また、戦争や船舶の沈没など、命の危険があるような現場にいた方については、1年間生死が不明の場合、同様の手続きが可能になります。

 もっとも、これらの手続きで人が亡くなっても、それはあくまで、「法的に亡くなったことにする」というだけなので、「後になって存命であることが分かった」という場合は、裁判所に対し「法律上死亡したことを取り消して欲しい」という申し出ができます。

 また、最近では、脳死状態を人の死亡と考えるかどうかについて、色々な議論があります。

 「臓器の移植に関する法律」では、一定の条件を満たした場合、脳死状態の方から、臓器を摘出することが認められています。

 生きている人から臓器を取り出すと、殺人罪に問われかねないため、臓器移植の場面に限って言えば、脳死状態を人の死と考えていると言えるでしょう。

 

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親の口座から多額のお金が払い戻されている場合の対応方法

 親が高齢になると、子が親の財産を管理するということは、珍しいことではありません。

 たとえば、お父さんが高齢になり、施設や病院に入院している間は、お父さんが自分で施設費用や医療費を支払うことは、難しいことが多いでしょう。

 そういったケースでは、お父さんが子に通帳を預け、必要な費用の支払いを託すことがあります。

 通帳を託された子が、お父さんのための生活費や医療費など、「お父さんのためにお金を使った」のであれば、何も問題ありません。

 しかし、お父さんの口座から自由にお金を払い戻せるという状況を利用し、不正にお金を使ってしまうというケースがあります。

 もし、家族の誰かが、親の口座からお金を不正に払い戻していることを知った時は、どうすればよいのでしょうか。

 まず、お父さんが認知症などになっておらず、判断能力がしっかりしている場合は、お父さんに対し事実を伝え、通帳を取り戻すことになります。

 お父さんは、自分の財産の管理権限を持っている以上、通帳を預かった子は、通帳の返還を拒むことはできません。

 ただし、お父さんが遠慮してしまい、強く言えないケースや、子が通帳の返還を拒むようなケースもあります。

 その際は、銀行に対し、「不正な払戻しをされている」旨を伝え、払い戻しができないようにしてもらうという方法があります。

 他方、もしお父さんが認知症になっていて、判断能力が乏しい場合はどうすればいいのでしょうか。

 先ほどと同じく、銀行に事情を伝え、口座を凍結してもらうという方法があります。

 しかし、口座を凍結させてしまうと、そこから施設の費用や入院費を支払うことが難しくなります。

 こういった場合には、後見制度を使うという選択があります。

 裁判所に後見人を選任してもらうことができれば、お父さんの財産の管理権限は、後見人に移ります。

 後見人が職務を開始すれば、それ以降の施設費用や入院費は、後見人がお父さんの財産から支払うことになります。

 もっとも、後見制度は、誰が後見人になるか分からない点や、財産の使い方に厳しい制限がつくなど、使い勝手が悪いという意見もあります。

 そのため、可能であれば、お父さんがお元気なうちに、生前契約を結んでおくことがお勧めです。

 たとえば、あらかじめ後見人になる人を指定できる「任意後見制度」や、特定の財産の管理権限を家族に移してしまう「家族信託」といった制度を利用すれば、認知症になった際にも慌てる必要はありません。

 ただし、どんなケースで、どの制度を利用すべきなのかは、その時の財産状況、家族構成などによって異なってくるため、どの制度を利用するかについては弁護士に相談することが大切です。

 

 

 

 

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