法律上の「人の死亡」は、どの時点なのか

 人が死亡すると、法律上は相続が発生したことになります。

 相続が発生すると、法的には様々な現象が起きます。

 たとえば、お父さんが亡くなって、相続人が長男と二男という例を考えてみます。

 お父さんが亡くなると、お父さんは「財産を所有する権利」を失います。

 そのため、お父さんが生前に自宅の不動産を所有していたり、預貯金口座を持っていたとしても、お父さんが亡くなると同時に、お父さんのものではなくなります。

 その代わり、お父さんが所有していた財産の権利は、相続人の長男と二男に受け継がれることになります。

 では、ここで疑問になるのが、「いつ人は死んだことになるのか」という点です。

 もちろん、多くの場合は、生物学上の死をもって、死亡したということになりますし、弁護士もその前提で実務を行っています。

 しかし、「生物学上の死を確認できない限り、人は死亡しない」ということになると、困ったことが起きるケースがあります。

 たとえば、遭難などで行方不明になっている方です。

 行方不明になり、住民票も存在しないような場合だと、その人が生きているのかどうか判断がつきません。

 行方不明の方の生物学上の死を確認することは、非常に困難です。

 それにもかかわらず、行方不明の方がずっと生きているということにすると、仮にその方が戸籍上200歳になっても、法律上は存命ということになります。

 そこで、「一定の条件を満たした場合、その人は法律上死亡したことにする」、という法律があります。

 まず、特定の方が行方不明になり、7年間生死が不明の場合、裁判所に「この人は亡くなったということにして欲しい」という申立てができます。

 また、戦争や船舶の沈没など、命の危険があるような現場にいた方については、1年間生死が不明の場合、同様の手続きが可能になります。

 もっとも、これらの手続きで人が亡くなっても、それはあくまで、「法的に亡くなったことにする」というだけなので、「後になって存命であることが分かった」という場合は、裁判所に対し「法律上死亡したことを取り消して欲しい」という申し出ができます。

 また、最近では、脳死状態を人の死亡と考えるかどうかについて、色々な議論があります。

 「臓器の移植に関する法律」では、一定の条件を満たした場合、脳死状態の方から、臓器を摘出することが認められています。

 生きている人から臓器を取り出すと、殺人罪に問われかねないため、臓器移植の場面に限って言えば、脳死状態を人の死と考えていると言えるでしょう。

 

失踪宣告

 人が亡くなると,相続が発生し,遺産を分けることになります。
 それでは,人はいつ亡くなったことになるのでしょうか。

 たとえば,臓器移植法では,「死体」から臓器を取り出すことが認められていますが,この「死体」の中には「脳死した者の身体」が含まれます。
 このような生と死の境界線の議論は,医療や倫理と密接にかかわる分野であり,どの時点を人の死と考えるかは流動的です。

 その他,法律の世界では,「亡くなったかどうかわからないけど,亡くなったことにしよう」という制度があります。

 まず,認定死亡という制度があります。
 これは,水難,火災,その他の事情で死亡したことが確実視される場合に,死体の確認ができなくても,その人が亡くなったことにする制度です。

 次に失踪宣告という制度があります。
 この制度は,長期間行方不明になった人を,法律上亡くなったことにする制度です。

 たとえば,名古屋に住民票があるのに,住民票の住所にその人がいなくて,行方不明の状態が7年間続いた場合は,その人が法律上亡くなったと考えることになります。

 また,船の沈没や,冬山登山で遭難等,危険な状態で行方不明になった場合は,1年間でその人が法律上亡くなったと考えることになります。

 もっとも,ただ行方不明なだけで亡くなったことになるわけではありません。
 利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告の申立てをする必要があります。

 失踪宣告は人が亡くなったかどうかを確認せず,人が亡くなったことにする制度であるため,慎重な運用がなされています。
 そのため,失踪宣告の制度を利用するのであれば,しっかりとした証拠を裁判所に提出する必要があります。

 どのような証拠が必要なのかは弁護士に相談することをおすすめします。