刑事事件の冒頭手続き

 刑事事件を傍聴したことがある方は、冒頭手続きを見たことがあるかもしれません。

 刑事事件の公判は、冒頭手続きというものがあり、冒頭手続きが終わってから、証拠調べ手続きを経て、当事者の最終意見の陳述を行うことになっています。

 冒頭手続きというのは、一言で言うなら、今回の裁判がどのようなものかを明らかにし、どのように裁判を進めていくかを知らせるものです。

 まず最初に、人定質問というものを行います。

 これは、法廷に立つ被告人が、身代わりだったり、人違いだったりしないかを確認するための手続きです。

 具体的には、裁判官が、被告人に対し、氏名、生年月日、住所、職業などを質問します。

 次に、起訴状朗読が行われます。

 起訴状とは、検察が、「被告人が、こういった犯罪を犯しました」ということをまとめたものです。

 たとえば、万引きであれば、被告人が、いつ、どこで、どんな商品を盗んだのかが記載されます。

 その次に、裁判官が、被告人に対し、黙秘権があることを伝えます。

 黙秘権という言葉は、文字どおり、話したくないことは話さなくていいという権利です。

 また、黙秘したことを理由に、不利な取り扱いを受けないという権利でもあります。

 

 これらの部分は、裁判官によっては、あっさりと告知するにとどまることもあるので、弁護士(弁護人)としては、公判の前の段階で、あらかじめ説明しておくことが必要です。

 その後に、被告人が、起訴状記載の事実について、意見を述べることになります。

 ここで言う意見とは、まず起訴状記載の事実を争うかどうかがメインと言えるでしょう。

 たとえば、起訴状に「令和6年2月1日15時頃、××にあるコンビニで、200円のパンを盗んだ」という事実が記載され、全く心当たりがない場合は、「起訴状記載の事実に、全く心当たりがありません」といった意見を述べることになります。

 また、「私は、その時間、会社の会議に出席しており、犯行は不可能です」といった、いわゆるアリバイがある旨を主張することもあります。

 また、傷害事件などであれば、確かに反撃はしたが、正当防衛であるといった主張もあり得ます。

 ニュースなどでよく流れるのは、「犯行当時、判断能力が無かった」というものですが、これも冒頭手続きの意見陳述で主張される内容です。

 他方、起訴状記載の事実を争わない場合は、「間違いありません」と述べることになります。

 実際の刑事事件では、「間違いありません」と述べることが、圧倒的に多いと言っていいでしょう。

 そのようになる理由は、検察は、基本的に有罪にできると確信した事件しか起訴しないからであると言われることが多いです。

 

 

 

刑事事件における協議・合意制度

 2016年に刑事訴訟法が改正され、新たな制度が設けられることになりました。

 具体的には、ある犯罪の疑いをかけられた人が、他の共犯者を特定するための協力をすることで、その協力者に一定の恩恵を与える制度です。

 つまり、犯罪を犯した人が、捜査機関に協力することで、不起訴処分や軽い求刑を得ることが可能になる制度です。

 もっとも、この制度が適用されるのは、一定の犯罪に限定されます。

 大きく分けると2つの類型があり、1つは薬物銃器犯罪で、もう1つは経済犯罪と言われるものです。

 いずれも、組織的に行われる可能性が高い犯罪類型が対象と言えるでしょう。

 具体的には、銃砲刀剣類所持等取締法、武器等製造法、大麻取締法、覚せい剤取締法、贈収賄関係の罪、組織的犯罪処罰法などが対象です。

 つまり、これらの犯罪は、組織のトップは、直接手をくだすことなく、あまり事情を分かっていない組織の末端の人たちに、犯罪行為を行わせることがあるため、組織のトップを捕まえるために、このような制度ができたと言えるでしょう。

 では、具体的に、どのような合意を行うかですが、まず、被疑者・被告人は、取り調べや証人尋問において、真実を述べる事、証拠の収集に関し、適切な協力をすることが求められます。

 検察官は、その協力の見返りとして、不起訴、公訴取消し、略式命令請求等、被疑者・被告人に対し、刑事上、有利な見返りを約束します。

 ただし、この制度は、自身の罪を免れるために、虚偽の証言を誘発しやすいという側面もあります。

 そのため、この制度を利用するためには、弁護人の同意が必須で、最終的な合意書面に、弁護人の署名が求められます。

 この制度は、真実の解明や、組織的犯罪の首謀者を裁判にかけやすくなるといった観点から、有用なものですが、弁護士として、この制度を使うべき場面が来れば、慎重な対応が求められます。

 まず、刑事事件においては、虚偽の共犯者をでっちあげて、自分の罪を軽くしようとすることは、一定の頻度で行われることです。

 そのため、弁護人としては、この制度を使おうとしている被疑者・被告人が、本当に真実を述べ、捜査機関に協力しようとしているのかを、慎重に判断しなければなりません。

 仮に、この制度を利用したにもかかわらず、法廷で虚偽の証言をすれば、偽証罪に問われ、さらには司法警察職員らに対する虚偽供述罪が問われますので、この点を十分に説明しなければなりません。

 他方で、この制度を使うことで、その被疑者・被告人は、刑事上、有利な扱いを受けるわけなので、弁護人として、慎重になり過ぎて、この制度を利用しないというわけにもいきません。

 そのため、様々な事情を総合考慮して、判断することが求められます。

 

 

賃貸借と使用貸借の違い

   弁護士になってから、物の貸し借りに関する契約書をたくさん見てきました。

 法律上、物の貸し借りをする際は賃貸借契約か、使用貸借契約という契約を結ぶことになります。

 この2つの契約の最も大きな違いは、物を貸す対価として、お金を支払うかどうかという点です。

 
 この「有料か、無料か」という違いに起因して、2つの契約は様々な違いがあります。

 今回は、賃貸借と使用貸借の違いについて、ご説明します。


1 賃貸借の具体例

 まず、賃貸借の具体例で、イメージをつかんでいただきます。 

 身近な例で言えば、大学生がアパートで独り暮らしをするときや、レンタルビデオ店でDVDなどを借りる場合があります。    


2 使用貸借の具体例

 たとえば、大学生が大学に通うために、親戚の家に居候するような場合は、使用貸借になります。

 また、知人に本を貸して、後日返してもらうような場合も、賃料をとらなければ、使用貸借です。


3 賃貸借と使用貸借の違い

 上記の例から見えてくることは、賃貸借は有料なので、ビジネス的な関係が想定されていることです。

 その反面、使用貸借は無料なので、親しい間柄での、物の貸し借りが想定されています。

 その結果、出てくる違いは、借り手の保護の手厚さです。


 賃貸借は、有料で借りてるわけですから、借主を保護する必要性が高くなります。

 たとえば、1人暮らしをしている人が、大家さんから簡単に「出ていけ」と言われては困ったことになります。


 他方、無料で家を借りている場合は、大家さんから「出ていけ」と言われたとしても、もともと無料なわけですから、そこまで借主を保護する必要はないということになります。

 つまり、賃貸借の方は、借主の権利が強く保護され、使用貸借の方では、貸主の権利が強く保護される傾向にあります。


 その表れとして、賃貸借契約で家に住んでいる場合、賃料を払い続けていれば、契約期間が過ぎたとしても、原則としそのまま自動更新されます。

 大家さんが、住んでいる人を追い出したいと考えても、住んでいる人が何らかの契約違反などをしない限り、追い出すことができません。


 他方、使用貸借契約で家に住んでいる場合は、定めた期限が来れば、いつでも住んでいる人を追い出すことができます。

 また、賃貸借契約の場合、家の維持・管理をするための費用は、基本的には大家さんが修理をする義務を負います。

 他方、使用貸借の場合は、家を維持・管理するための費用は、原則として借主が負担することになります。


 このように、「有料か、無料か」という違いから、賃貸借と使用貸借は、様々な違いが生まれます。