個人再生の流れ

 個人再生の手続きの流れは、裁判所によって大きく運用が異なります。

 私は大阪の弁護士なので、大阪の裁判所の運用について、簡単にご説明したいと思います。

 まず、個人再生のスタートは、地方裁判所に、個人再生の申立書類を提出することから始まります。

 ただし、いきなり個人再生の申立書のみを、裁判所に提出するのではなく、「個人再生をするための要件を満たしていること」が分かる資料も添付しなければなりません。

 たとえば、債務がどれくらいあるのか、預貯金などの資産がどれくらいあるのかといった資料が必要になります。

 個人再生の申立書類を裁判所に提出した後、おおよそ2週間程度で、個人再生の手続きが始まるかどうかが決まります(もし、個人再生の要件を満たしていないと判断されると、ここで手続きが終わってしまいます)。

 次に、個人再生を申し立てる際に、債権者の一覧表を添付しているので、裁判所は、その債権者に対し、債権の届出をするよう、促すことになります。

 債権者から、届出があった後、当該債権に対し異議が出なければ、個人再生の申立人は、「再生計画案」を提出しなければなりません。

 「再生計画案」とは、今後、誰に、どれだけの返済を行っていくかの計画表を指します。

 「再生計画案」は、自由に決めていいわけではなく、一定のルールがあります。

 たとえば、最低弁済額という、『最低でも、これだけは返済しなければならない』という基準が設けられているため、そういった条件をクリアした「再生計画案」を作成する必要があります。

 債権者は、「再生計画案」を見て、個人再生に賛成するか、反対するかを決めることになるため、慎重に計画を立てる必要があります。

 たとえば、収入状況から見て、およそ返済が困難だと思われてしまうような「再生計画案」を出すと、債権者が個人再生に反対する可能性があります。

 もし、法律で定められた数の同意が得られなければ、個人再生は認められなくなってしまいます。

 そのため、個人再生の手続き中に、大きく収入が減ってしまったり、収入が減っていなくても、ギャンブルなどにお金をたくさん使ってしまうと、債権者の同意は難しくなってきます。

 仮に、問題無く手続きが進めば、裁判所が個人再生の認可決定をします。

 この認可決定を受けた後、個人再生を申し立てた人は、「再生計画」に従って、債権者に返済をしていくことになります。

 具体的には、3年から5年かけて、債務を返済していくことになります。

 

 

 

 

小規模個人再生と給与所得者等再生

 債務整理を検討したことがある方は、小規模個人再生と、給与所得者等再生という言葉を、聞いたことがあるかもしれません。

 小規模個人再生は、債務を減額した上で、分割払いをしていく制度ですが、給与所得者等再生は、その督促という位置づけになっています。

 小規模個人再生と、給与所得者等再生では、大きく分けて、3つの違いがあります。

 1つ目の違いは、給与所得者等再生では、収入状況について、特別な条件が付いている点です。

 法律上は、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことが必要です(民事再生法239条1項)。

 2つ目の違いは、最低弁済額の計算方法です。

 小規模個人再生では、債権額によって、おおよそ100万円から500万円の返済が必要になるのに対し、給与所得者等再生では、生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上の返済が必要という条件がつきます。

 3つ目の違いは、小規模個人再生は、債権者の書面決議が必要ですが、給与所得者等再生では、書面決議が不要とされています。

 では、どのようなケースで、給与所得者等再生の向き・不向きが分かるでしょうか。

 まず、独身の方は、給与所得者等再生は、不向きなことが多いと言えます。

 その理由は、独身の方は、扶養家族がいないため、生活保護基準によれば、可処分所得が多くなり、最低弁済額が高めになってしまうためです。

 次に、過去2年間の間で、収入状況に大きな変動がない方は、給与者所得等再生に向いています。

 たとえば、公務員や会社員など、安定的に給与所得がある方は、給与者所得等再生を行いやすいと言えるでしょう。

 では、個人事業主のように、毎月の収入状況が安定しないこともある方は、給与者所得等再生はできないのかというと、そういうわけではありません。

 たとえば、個人事業主の方であっても、特定の建設業者から、安定的に下請けを受けることができている場合、給与者等所得再生が可能な場合があります。

 さらに、何らかの理由で、債権者が小規模個人再生に反対してくることが予想される場合は、積極的に給与者所得者等を検討すべきでしょう。

 なぜなら、給与所得者等再生では、書面決議が不要になるからです。

 以上のように、小規模個人再生を選択するか、給与所得者等再生を選択するかは、諸事情を総合的に検討した上で、判断しなければなりません。

 かなり専門的なノウハウが求められるため、債務整理を検討している方は、一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

個人再生で重要な「安定的な収入」

 個人再生をすると、借金の大幅な減額が可能になるため、借金の返済で困った場合は、個人再生を検討してみる価値があります。

 まず、個人再生は、借金を減額した上で、残った借金を分割払いしていく制度なので、安定的な収入がある場合に、適した制度と言えます。

 もし、収入の見込みがないような場合は、自己破産の検討をすることになります。

 次に、「マイホームは残したい」というような場合は、個人再生が適しています。

 自己破産をすることになれば、基本的にマイホームを売却し、借金の返済にあてなければなりませんが、個人再生を使えば、住宅ローンが残っていても、マイホームを残すことが可能です。

 ただし、マイホームを残したい場合、住宅ローンは、個人再生後も全額返済が必要になります。

 そういった観点からも、個人再生をする上では、やはり安定的な収入というのは、必須になります。

 では、どういったケースなら「安定的な収入がある」とみなされるのでしょうか。

 まず、会社員や公務員など、毎月、安定的にお給料がもらえるようなケースだと、「安定的な収入がある」ということになるでしょう。

 では、個人事業主の方は、どうでしょうか。

 個人事業主の方は、その時々の状況によって、収入にばらつきが出てしまうので、「安定的」という言葉からは、やや遠いようにも思えます。

 しかし、ここでいう「安定的」とは、「借金の返済を継続できるか」という意味あいが強いため、仮に収入にばらつきがあっても、借金の返済に十分な収入を確保できる状態であれば、「安定的な収入がある」となりやすいでしょう。

 次に、アルバイトやパートタイマーなどはどうでしょうか。

 アルバイトやパートタイマーの場合、会社員や公務員と比較すると、「ずっとその仕事を継続する可能性」や、「シフトにたくさん入ったかどうかで収入が変わる可能性」などが考慮されます。

 たとえば、長年、同じ職場で働いていて、毎月の収入にそれほど差がないようなケースであれば、「安定的な収入がある状態」と評価できるでしょう。

 他方、頻繁に職場を変えていたり、生活ギリギリの収入しか得られない状態だと、借金の返済が継続できないという評価がなされる可能性が高まります。

 このように、個人再生をする上で重要な「安定的な収入」は、個人再生をする方の職種、勤務実績、就労意欲、年齢など、諸般の事情を考慮した上で、判断されます。

 どういったケースで、「安定的な収入」があると言えるのかは、一度弁護士に相談するとよいでしょう。

個人再生のメリット・デメリット

 「今ある借金を減額したいけど、せっかく購入した住宅は残したい」
 そういった方には、個人再生という手続きが適しているかもしれません。
 今回は、個人再生という制度のメリットとデメリットについて、ご説明します。
 
 個人再生という制度は、今ある借金を大幅に減額した上で、残った借金を3年から5年かけて、返済していくための制度です。
 
 この制度の最大のメリットは、住宅を残すことができるという点です。
 もし、自己破産をする場合は、せっかく購入した住宅を、売却しなければなりません。

 しかし、個人再生であれば、住宅を売却しなくてもよくなります。

 
 次に、個人再生を行えば、借金を5分の1から10分の1程度まで、減額することが可能です。
 仮に、600万円の借金を、5分の1に減額できた場合、借金を120万円まで圧縮することができます。

 つまり、借金が480万円減額されるため、借金の負担がとても軽くなります。

 
 また、個人再生では、借金の理由が問われないという点も、大きなメリットです。
 仮に、自己破産を行う場合、借金の理由によっては、借金の返済義務が消えない可能性があります(たとえば、ギャンブルが主な借金の理由だったようなケースです。)。
 そのため、たとえパチンコや、競馬などのギャンブルによって、借金を抱えていたとしても、個人再生であれば、問題なく、手続きを進めることができます。
 
 さらに、個人再生を行っても、資格の制限を受けません。
 仮に、自己破産を行う場合、警備員、生命保険募集人、税理士、弁護士など、一定の資格が制限され、制限中はその資格を使って、仕事をすることができません。

 しかし、個人再生は資格制限がないため、問題なく仕事を継続することができます。

 
 他方で、個人再生には、次のようなデメリットもあります。
 まず、個人再生は、あくまで借金の返済を継続していかなければならない手続きです。

 つまり、借金の負担が完全になくなるわけではなく、しかも今後も継続して収入を得られる予定の人しか、個人再生は利用できません。
 自己破産であれば、原則として借金の返済義務がなくなるため、ここだけを比較すれば、自己破産の方が有利と言えます。
 
 次に、個人再生は、全債権者を対象としなければならないため、ご家族に個人再生したことを知られてしまう可能性があります。

 たとえば、借金の中に、奨学金があって、ご親族が保証人になっている場合、ご親族に個人再生をした旨の通知が届きます。
 
 また、個人再生に限ったデメリットではありませんが、個人再生を行うと、信用情報機関に登録されます。

 その結果、一定期間はクレジットカードを作ったり、新たな借り入れをすることが、難しくなります。

 
 以上をまとめますと、個人再生は、住宅を失いたくない場合や、資格の制限を受けると困るようなケースで、非常に有効な債務整理の方法です。

 自己破産などの、他の制度とメリットやデメリットを比較しつつ、個人再生をするかどうかを選択することになります。