法律上の「人の死亡」は、どの時点なのか

 人が死亡すると、法律上は相続が発生したことになります。

 相続が発生すると、法的には様々な現象が起きます。

 たとえば、お父さんが亡くなって、相続人が長男と二男という例を考えてみます。

 お父さんが亡くなると、お父さんは「財産を所有する権利」を失います。

 そのため、お父さんが生前に自宅の不動産を所有していたり、預貯金口座を持っていたとしても、お父さんが亡くなると同時に、お父さんのものではなくなります。

 その代わり、お父さんが所有していた財産の権利は、相続人の長男と二男に受け継がれることになります。

 では、ここで疑問になるのが、「いつ人は死んだことになるのか」という点です。

 もちろん、多くの場合は、生物学上の死をもって、死亡したということになりますし、弁護士もその前提で実務を行っています。

 しかし、「生物学上の死を確認できない限り、人は死亡しない」ということになると、困ったことが起きるケースがあります。

 たとえば、遭難などで行方不明になっている方です。

 行方不明になり、住民票も存在しないような場合だと、その人が生きているのかどうか判断がつきません。

 行方不明の方の生物学上の死を確認することは、非常に困難です。

 それにもかかわらず、行方不明の方がずっと生きているということにすると、仮にその方が戸籍上200歳になっても、法律上は存命ということになります。

 そこで、「一定の条件を満たした場合、その人は法律上死亡したことにする」、という法律があります。

 まず、特定の方が行方不明になり、7年間生死が不明の場合、裁判所に「この人は亡くなったということにして欲しい」という申立てができます。

 また、戦争や船舶の沈没など、命の危険があるような現場にいた方については、1年間生死が不明の場合、同様の手続きが可能になります。

 もっとも、これらの手続きで人が亡くなっても、それはあくまで、「法的に亡くなったことにする」というだけなので、「後になって存命であることが分かった」という場合は、裁判所に対し「法律上死亡したことを取り消して欲しい」という申し出ができます。

 また、最近では、脳死状態を人の死亡と考えるかどうかについて、色々な議論があります。

 「臓器の移植に関する法律」では、一定の条件を満たした場合、脳死状態の方から、臓器を摘出することが認められています。

 生きている人から臓器を取り出すと、殺人罪に問われかねないため、臓器移植の場面に限って言えば、脳死状態を人の死と考えていると言えるでしょう。

 

親の口座から多額のお金が払い戻されている場合の対応方法

 親が高齢になると、子が親の財産を管理するということは、珍しいことではありません。

 たとえば、お父さんが高齢になり、施設や病院に入院している間は、お父さんが自分で施設費用や医療費を支払うことは、難しいことが多いでしょう。

 そういったケースでは、お父さんが子に通帳を預け、必要な費用の支払いを託すことがあります。

 通帳を託された子が、お父さんのための生活費や医療費など、「お父さんのためにお金を使った」のであれば、何も問題ありません。

 しかし、お父さんの口座から自由にお金を払い戻せるという状況を利用し、不正にお金を使ってしまうというケースがあります。

 もし、家族の誰かが、親の口座からお金を不正に払い戻していることを知った時は、どうすればよいのでしょうか。

 まず、お父さんが認知症などになっておらず、判断能力がしっかりしている場合は、お父さんに対し事実を伝え、通帳を取り戻すことになります。

 お父さんは、自分の財産の管理権限を持っている以上、通帳を預かった子は、通帳の返還を拒むことはできません。

 ただし、お父さんが遠慮してしまい、強く言えないケースや、子が通帳の返還を拒むようなケースもあります。

 その際は、銀行に対し、「不正な払戻しをされている」旨を伝え、払い戻しができないようにしてもらうという方法があります。

 他方、もしお父さんが認知症になっていて、判断能力が乏しい場合はどうすればいいのでしょうか。

 先ほどと同じく、銀行に事情を伝え、口座を凍結してもらうという方法があります。

 しかし、口座を凍結させてしまうと、そこから施設の費用や入院費を支払うことが難しくなります。

 こういった場合には、後見制度を使うという選択があります。

 裁判所に後見人を選任してもらうことができれば、お父さんの財産の管理権限は、後見人に移ります。

 後見人が職務を開始すれば、それ以降の施設費用や入院費は、後見人がお父さんの財産から支払うことになります。

 もっとも、後見制度は、誰が後見人になるか分からない点や、財産の使い方に厳しい制限がつくなど、使い勝手が悪いという意見もあります。

 そのため、可能であれば、お父さんがお元気なうちに、生前契約を結んでおくことがお勧めです。

 たとえば、あらかじめ後見人になる人を指定できる「任意後見制度」や、特定の財産の管理権限を家族に移してしまう「家族信託」といった制度を利用すれば、認知症になった際にも慌てる必要はありません。

 ただし、どんなケースで、どの制度を利用すべきなのかは、その時の財産状況、家族構成などによって異なってくるため、どの制度を利用するかについては弁護士に相談することが大切です。

 

 

 

 

家族信託が活用される場面

 最近、雑誌などで家族信託という言葉を目にすることが増えてきました。

 家族信託は、財産に関する権限を、誰かに託す制度です。

 最も多く活用されているのは、高齢者の方の認知症対策です。

 たとえば、高齢になった親が、施設に入りたいと考えた際、ある程度まとまったお金が必要なことがあります。

 そこで、自宅を売却して、そのお金で施設に入るということが考えられますが、もし親が認知症になっている場合、不動産の売却が難しいかもしれません。

 そんな場合に備えて、自宅の売却権限をあらかじめ子に渡しておき、いざというときに自宅を売却できるようにしておくのが家族信託です。

 他にも、家族信託には、特殊詐欺の防止という効果もあります。

 たとえば、オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺は、被害者のほとんどが高齢者です。

 特殊詐欺が起きてしまう要因として、「認知能力が低下した高齢者の方がいつでも大きな金額の払い戻しができる状態」が存在することがあげられます。

 そこで、あらかじめ親が子にお金の管理権限を託しておき、必要になった分だけ、子が親にお金を渡すようにしておけば、特殊詐欺を未然に防止することも可能になります。

 このような具体例がつづくと、「家族信託は高齢者のための制度だ」というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、家族信託は、必ずしも高齢者のためだけの制度とは限りません。

 たとえば、父、長男、二男の3名がいて、二男には重い障害があったとします。

 父は、自分の遺産は兄弟で平等に相続して欲しいが、二男は財産を適切に管理することが難しい可能性があります。

 こういった場合に、財産は兄弟で平等に相続しつつ、二男に相続させる財産の管理権限を、長男に渡しておくといったことが可能です。

 仮に父が4000万円のお金を持っていて、長男に2000万円を相続させ、二男にも2000万円を相続させるものの、二男の2000万円は長男が管理し、必要な時に二男のために使うという形です。

 このように、家族信託は、親が子のために用いることもある制度です。

 家族信託は、便利な制度ではありますが、税金面には注意が必要です。

 財産権を動かすと、そこに税金が発生する可能性があるためです。

 財産を託す人がだれで、財産の利益を受け取る人が誰なのかを、しっかりと制度設計段階で定めておかないと、多額の税金が課せられるおそれがあります。

 家族信託を検討する際は、相続の法律や税金に詳しい弁護士に相談をすることが大切です。

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養子縁組の方法

 血縁がなくとも、養子縁組をすれば、法律上親子になることができます。

 かつて、明治時代では、男性が家督を継ぐことになっていたので、子に恵まれなかった家庭や、男性の子が生まれなかった家庭では、養子縁組によって家督相続を行っていました。

 なかには、家同士で取り決めをして、子が生まれた際に、「別の家の子」として届け出ることもありました(「わらの上からの養子」などと言われます。)。

 今の日本では、養子縁組の種類は、養子の年齢によって、大きく2つに分けられます。

 1つは、未成年を養子にする場合です。

 未成年を養子にする場合、実の親との親子関係を消滅させる特別養子という制度もあります。

 もう1つは、成人した人を養子にするものです。

 それぞれ、制度の目的に応じて、手続きが異なります。

 たとえば、15歳未満を養子にする場合は、親権者などの承諾が必要になります。

 そのため、父母が共同で親権を持っているときは、父母両方から同意を得ないと、養子縁組をすることができません。

 さらに、原則として、家庭裁判所の許可も必要です。

 未成年の養子縁組は、子の福祉を目的としているため、新しく親になる人について、裁判所が適格性をチェックすることになります。

 他方、成人を養子にする場合は、「判断能力がある大人同士のこと」であるため、家庭裁判所の許可は不要です。

 次に、養子縁組をする際は、養子縁組届を市役所に提出することになります。

 書式のフォーマットは、各市区町村役場に備え付けられています。

 

 養子縁組が認められると、養子は法律上、実の子と同じ身分を取得します。

 その結果、相続権や扶養義務といった、親子関係の法律が適用されます。

 

 では、「仲が悪くなったので、やっぱり養子縁組をやめにしたい」という場合は、どうしたらいいのでしょうか。

 養子縁組で親子になった2人を、他人同士に戻すことを離縁といいます。

 双方の同意があれば、市役所に「離縁届」というものを出せば、養子縁組によって生まれた親子関係を消滅させることができます。

 また、片方が同意しない場合は、離縁の裁判をすることもできます。

 ただし、裁判で離縁をするためには、双方の信頼関係が破壊され、回復不能な状態といえるほどに、特別な事情が必要になります。

 また、信頼関係を積極的に破壊した側から、離縁の裁判をしても、「それは自己責任でしょ」ということで、裁判所は離縁を認めない傾向にあります。

 養子縁組は、家族構成そのものを変える行為なので、時には親族から色々口を出されてしまう等のトラブルを引き起こすこともあります。

 養子縁組のことで、気になることがある方は、弁護士に相談するとよいでしょう。

  

婚姻が無効になる場合

 婚姻することになった場合、婚姻届けを作成し、役所に提出することになります。

 役所では、提出された書面に不備がないかを形式的に審査するだけなので、婚姻が無効かどうかについては判断しません。

 つまり、提出された書面に不備がなければ、「とりあえず有効な婚姻関係が成立した」という扱いになります。

 しかし、法律では、婚姻が無効になる場合について、規定が定められています。

 その1つとして、「婚姻の意思がない」というものがあります。

 つまり、婚姻届けを出したものの、実際は「婚姻の意思がない」場合、婚姻は無効になるということです。

 では、どういった場合に、「婚姻の意思がない」ということになるのでしょうか。

 この点について、最高裁は「当事者間に真に社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す」と判示しています。

 さらに、「法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎない」場合、婚姻は無効になるとも判示しています。

 この判決内容からすると、たとえば日本でのビザを取得することだけを目的に、婚姻届けを提出したような場合は、婚姻が無効になることもあり得るでしょう。

 では、長期間同棲していたカップルが、余命わずかの時に婚姻届けを提出した場合はどうでしょうか。

 たとえばAさんが余命わずかの状態で、交際相手のBさんと婚姻すれば、BさんはAさんの遺産を相続することができるようになります。

 そうなれば、Aさんの親族は、「遺産目当ての婚姻だ」などと主張し、弁護士に裁判の依頼をすることが予想されます。

 もし、最高裁が述べる「真に社会通念上夫婦であると認められる関係」というものが、『婚姻届けを出した後も、夫婦として共同生活を送ること』を指していると考えると、まもなく死別してしまう2人には、婚姻の意思がないと評価する余地が出てきます。

 しかし、この点がまさに争点になった裁判では、婚姻が有効なものであると判断しました。

 つまり、最高裁は、婚姻届けを出した後も、ずっと一緒に暮らしていくことまでは必要ないと考えていると言えるでしょう。

 

弁護士と委任契約

 たとえば、遺産の分け方で相続人同士がもめてしまい、収拾がつかなくなった場合、弁護士に交渉を依頼するということがあるかもしれません。

 もし、弁護士に遺産の分け方を依頼することになった場合は、弁護士と契約を結ぶことになります。

 この弁護士との契約は、民法では委任契約と呼ばれています。

   

 今回は、委任契約というものについて、ご説明したいと思います。

1 他の契約と比較した場合の委任契約の特徴

 委任契約は、何らかのお仕事を任せることを内容とします。

 何らかのお仕事を依頼するという意味では、たとえば会社が従業員を雇って、お仕事を任せるという場合がありますが、これは委任契約とは言いません。

 会社が従業員を雇う場合は、雇用契約です。

 雇用契約では、基本的に従業員は会社の業務命令に従わなければなりません。

 しかし、委任契約は、そのような指揮・命令関係はありません。

 また、何らかのお仕事を任せるという意味では、大工さんに家を建ててもらうという契約もありますが、これも委任契約とは言いません。

 この契約は、あくまで「家の完成」を目的としているため、大工さんは家を完成させない限り、原則として報酬を受け取ることができません。

 このような契約類型を請負契約と言います。

 他方、委任契約は、何らかの仕事を完成させなくても、報酬を得ることができます。

 たとえば、弁護士が裁判をして負けたとしても、裁判を行ったことへの報酬はお支払いいただくことになります。

   

2 医師の診察や手術も委任契約

 病院で診察を受けたり、手術を受ける場合も、委任契約の一種と考えられています。

 たとえば、患者は医師に対して、指揮・命令権は持っていませんし、仮に治療の甲斐なく亡くなってしまっても、医療費は支払わなければなりません。

 そういった意味で、医師と患者の契約関係は、雇用契約でも、請負契約とも言えません。

3 委任契約は原則として無料?

 法律では、委任契約によって、報酬を請求する場合、その旨の特約を結んでおく必要があるとされています。

 そのため、委任契約は原則として無報酬というのが、法律の建前と言えます。

 もっとも、「普通、このサービスが無料なわけないでしょう」というものについては、特約がなくても有料になることがあります。

 たとえば、弁護士や医師に依頼した場合に、無料でサービスを受けることができるかと言うと、それは社会通念上難しいということになります。

 もっとも、実際の場面では、委任契約を結ぶ際は、契約書に署名・押印することが多いため、委任契約が無料という場面は少ないと思います。

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相続と不動産鑑定

 相続分野を扱っていると、「遺産の不動産をどうするか」、という問題に直面することが多々あります。

 特に、不動産を何円の財産と評価するのかで、相続人同士がヒートアップすることも少なくありません。

 それでは、不動産の値段は、どうやって決まるのでしょうか。

 実は、不動産について、「これで絶対値段が決まる」という算定方法があるわけではありません。

 全く同じ不動産、というものは存在しないため、個々の不動産の個性に注目しながら、不動産の評価額を決めていくことになります。

ただ、弁護士であっても、不動産の評価に詳しいとは限らないため、不動産会社や不動産鑑定士に評価の決め方を委ねてしまう場合もあるかもしれません。

 しかし、たとえば相手方の弁護士が出してきた不動産の査定書や鑑定書が、妥当なものなのかどうかは、弁護士が責任を持って判断しなければなりません。

 私も、日々不動産の評価方法は研究していますので、今日は不動産の評価の方法について、簡単にご説明します。

1 不動産評価の方法

 不動産の評価の方法は、大きく分けて3種類あります。

 1つは、原価方式という方法で、「その不動産を再調達しようと思ったとき、どれくらい費用が必要か」とい   う点に着目した方法です。

 2つ目は、比較方式という方法で、周辺の不動産取引の相場から、不動産の価格を決めていく方法です。

 3つ目は、収益方式という方法で、不動産が生み出す利益に注目して、不動産の価格を決める方法です。

2 どの方法が適切なのか

 理論的には、どれも正しいですが、それぞれに適した場面、適していない場面というものがあります。

 そのため、実際の不動産鑑定の際は、3つの手法を掛け合わせて、不動産の鑑定を行います。

 たとえば、一軒家を所有し、誰かに貸し出している場合は、その一軒家は収益を生んでいるので、収益方式で鑑定しやすい物件と言えます。

 他方、その物件の賃料が、何世代も前から変わっていなくて、相場より異常に安い場合は、収益方式のみだと、適正な評価額が出ないこともあります。

3 不動産会社が用いる方法

 不動産会社で、不動産の売買価格の査定を行う場合があります。

 通常、不動産会社は、比較方式を採用し、周辺の同じような条件の物件が、どれくらいの価格で売れたのかということを重視して、査定を行います。

 もっとも、不動産会社の査定システムは、不動産鑑定士が行う鑑定とは異なり、そこそこアバウトな面もあります。

 そのため、不動産会社が作成した査定書については、その数字が正しいのか、慎重な検討が必要です。

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相続で問題になりやすい不動産

 一般的に、収益を生み出しているような不動産であれば、不動産としての価値は高いかもしれません。

 しかし、いざ相続の場面になれば、そのような価値の高い不動産を巡って、争いが起きやすくなります。

 また、田んぼ、畑、山林など、売却が難しく、誰も欲しがらないような不動産については、押し付け合いがおきやすくなります。

 もし、遺産の中に、相続で問題になりやすい不動産がある場合は、不動産の分け方について、弁護士の見解を聞いてみることも大切です。

相続登記の義務化

 相続が発生し、遺産の中に不動産がある場合は、相続登記を行うことになります。

 今までは、相続登記の期限が定められていなかったため、放置されていることもありました。

 しかし、その結果、何世代にもわたって不動産の名義が変わらず、所有者が不明の状態になることもしばしばあります。

 そこで、相続登記の義務化が決まりました。

 相続登記を放置しておくと、色々な面で不利益を被る可能性があります。

 相続登記をするためには、遺産分割協議など、各種手続きを進める必要があります。

 相続登記が必要な方は、弁護士のアドバイスを受けつつ、手続きを進めましょう。

 

相続人がいない場合の手続き

 人が亡くなった時は、もれなく相続の問題が発生します。

 では、亡くなった方が、天涯孤独で、相続人が1人もいない場合はどうなるのでしょうか。

 もし亡くなった方が残した預貯金、不動産、株式などの財産が、そのまま放置されてしまうと、様々な問題が生じ得ます。


 たとえば、亡くなった方が残した建物を放置しておけば、いずれ老朽化によって倒壊してしまうかもしれません。

 また、亡くなった方にお金を貸していた人にとっては、お金を回収できなくなるという不利益が発生してしまいます。

 このような場合に備えて、法律は「相続人が1人もいない場合」を想定した規定を用意しています。

 具体的には、亡くなった方の財産を法人として扱います。

 法人として扱うというと、何が何やら分からない感じもしますが、イメージ的には会社と同じ扱いをするということです。

 たとえば、会社は人ではありませんが、実際には商品を売ったり、銀行からお金を借りたりなど、様々な経済活動をしています。

 これと同じように、遺産にも特別な性質を認めて、様々な手続きを可能にしています。

 しかし、会社という存在が、商品を直接売るわけではありません。

 あくまで、会社で働いている人が、商品の販売を行います。

 これと同じように、遺産について、具体的な手続きを進めるためには、それを実行する人が必要になります。

 このような実行部隊を相続財産管理人といいます。

 相続財産管理人は、裁判所で選任され、具体的な相続手続を進めます。

 場合によっては裁判等もすることがあるため、多くのケースで、弁護士が選ばれます。

 相続財産管理人は、相続の手続きの全権限を持っています。

 たとえば、亡くなった人が、誰かにお金を貸していたなら、そのお金を回収することになります。

 反対に、亡くなった人に借金があった場合は、遺産の中からお金を用意して、借金の返済をします。

 また、亡くなった方と特別な関係にあった方に、いくらかの財産を渡すこともあります。

 特別な関係とは、様々な場合があります。

 たとえば、亡くなった方と婚姻関係にはなかったものの、ずっと一緒に暮らしていて、事実上夫婦のような関係にある方が典型例です。

 他にも、ご近所の方が、献身的に亡くなった方の介護などを行っていた場合は、その方に遺産の一部を渡すことがあります。

 さらに、特別な関係の方とは、普通の人に限られず、法人でもよいとされています。

 例えば、会社、宗教法人、学校法人、地方公共団体なども対象です。

 もっとも、これらの法人や団体が、亡くなった方の財産を分けるほどの、特別な関係と認定されることは、あまり多くありません。

 では、最終的に遺産が余った場合、どうなるのでしょうか。

 この場合、相続財産管理人が遺産をもらう、というわけではありません。

 あくまで相続財産管理人は、裁判所に財産の管理を任されているだけなので、遺産を取得する権利はありません。

 遺産が余った場合は、その遺産は国のものになる決まりになっています。

賃貸借と使用貸借の違い

   弁護士になってから、物の貸し借りに関する契約書をたくさん見てきました。

 法律上、物の貸し借りをする際は賃貸借契約か、使用貸借契約という契約を結ぶことになります。

 この2つの契約の最も大きな違いは、物を貸す対価として、お金を支払うかどうかという点です。

 
 この「有料か、無料か」という違いに起因して、2つの契約は様々な違いがあります。

 今回は、賃貸借と使用貸借の違いについて、ご説明します。


1 賃貸借の具体例

 まず、賃貸借の具体例で、イメージをつかんでいただきます。 

 身近な例で言えば、大学生がアパートで独り暮らしをするときや、レンタルビデオ店でDVDなどを借りる場合があります。    


2 使用貸借の具体例

 たとえば、大学生が大学に通うために、親戚の家に居候するような場合は、使用貸借になります。

 また、知人に本を貸して、後日返してもらうような場合も、賃料をとらなければ、使用貸借です。


3 賃貸借と使用貸借の違い

 上記の例から見えてくることは、賃貸借は有料なので、ビジネス的な関係が想定されていることです。

 その反面、使用貸借は無料なので、親しい間柄での、物の貸し借りが想定されています。

 その結果、出てくる違いは、借り手の保護の手厚さです。


 賃貸借は、有料で借りてるわけですから、借主を保護する必要性が高くなります。

 たとえば、1人暮らしをしている人が、大家さんから簡単に「出ていけ」と言われては困ったことになります。


 他方、無料で家を借りている場合は、大家さんから「出ていけ」と言われたとしても、もともと無料なわけですから、そこまで借主を保護する必要はないということになります。

 つまり、賃貸借の方は、借主の権利が強く保護され、使用貸借の方では、貸主の権利が強く保護される傾向にあります。


 その表れとして、賃貸借契約で家に住んでいる場合、賃料を払い続けていれば、契約期間が過ぎたとしても、原則としそのまま自動更新されます。

 大家さんが、住んでいる人を追い出したいと考えても、住んでいる人が何らかの契約違反などをしない限り、追い出すことができません。


 他方、使用貸借契約で家に住んでいる場合は、定めた期限が来れば、いつでも住んでいる人を追い出すことができます。

 また、賃貸借契約の場合、家の維持・管理をするための費用は、基本的には大家さんが修理をする義務を負います。

 他方、使用貸借の場合は、家を維持・管理するための費用は、原則として借主が負担することになります。


 このように、「有料か、無料か」という違いから、賃貸借と使用貸借は、様々な違いが生まれます。

所有権と占有権の違い

 所有権という言葉は、法律の世界でもよく出てきます。

 法律の世界の言葉は、日常的に使われている言葉と、意味が全然違うときがありますが、所有権という言葉については、日常用語で使われている意味と、あまり違いはありません。

 
  所有権を持っている人(所有者)は、その物を使ったり、貸したり、売ったりすることができます。

 つまり、その物を基本的に好きにできる権利のことを所有権と呼んでいます。


 他方、法律の世界では、占有権という言葉が出てきます。

 占有権という言葉は、あまり日常的に使われることはありませんが、どのような意味なのでしょうか。

 占有権とは、物を自分の支配下に置いている状況の事を指すというイメージです。


 たとえば、友達からボールペンを借りた場合を考えてみましょう。

 友達からボールペンを借りた場合、あくまで借りただけなので、そのボールペンの所有権は友達が持っています。


 他方、ボールペンを借りた人が、実際にそのボールペンを使って字を書いている時、そのボールペンは、借りた人の支配下にあると言えます。

 ボールペンを借りた人は、あくまで借りているだけなので、そのボールペンを勝手に誰かに売ったり、貸したりすることはできません。

 ボールペンを借りた人は、ボールペンを自分の支配下に置いていますが、自分の好きなようにボールペンを処分することはできないのです。

 

 もう1つ具体例を出します。

 社会人になって、マンションで一人暮らしをすることになった場合、そのマンションの所有権は、あくまで大家さんが持っています。

 他方、その家に住んでいる人は、その家を自分の支配下に置いているため、その家を占有権を持っています。

 マンションを借りた人は、その部屋を支配下に置いているため、自分以外の人が勝手にマンションの部屋に入ろうとしたら、追い出すことができます。

 
 しかし、マンションを借りた人は、マンションの所有者ではないため、マンションを売却したり、誰かに貸したりはできません。


 何となく、所有権と占有権の違いについては、イメージしていただけましたでしょうか。

 一言で言うなら、所有権は、「自分の物なんだから、どうしようと自分の勝手だ」という権利で、占有権は「一定の範囲で他人の所有物を利用することができる権利」というイメージです。


 所有権について、少しだけ補足しておきます。

 所有権は「自分の物なんだから、どうしようと自分の勝手だ」というイメージだとご説明しましたが、当然法律上の制限があります。

 たとえば、不要になった家電を、道端に捨てると不法投棄になってしまいます。

 
 また、人間のように、そもそも所有権の対象になり得ない存在もあります(厳密には、奴隷制度を認めていた時代は、人間を物と同じように扱うことが法的に可能でしたが、今の日本の法律では不可能です。)。


 今、自分が手にしている権利が所有権なのか、占有権なのかによって、どのような裁判をするのかも変わってきます。

 所有権や占有権を侵害された場合には、弁護士にご相談ください。

 

権利能力なき社団とは何か

 法律系の本を読むと、権利能力なき社団という言葉を目にすることがあります。
 最初にこの言葉を見た時は、さっぱりイメージがつかない方も少なくありませんが、法律の勉強を進めていくと、何となく理解ができるようになります。

 新聞などにも権利能力なき社団が載ることがあるので、ここでは権利能力なき社団について、ご説明します。
 
 言葉を分解すると、「権利能力」が「ない」「社団」ということになりますが、そもそも権利能力という言葉が聞きなれないものだと思います。
 権利能力とは、何らかの権利を持つ資格や、義務を背負うことができる資格を指します。
 

 
たとえば、皆様がコンビニでジュースを買うことができるのは、お金という物を所有する権利を持ち、ジュースの売買契約をする権利を持ち、買ったジュースを所有する権利があるからです。

 他方、犬や猫は、どれだけ知能が高くとも、たとえ人の言葉を話すことができたとしても、コンビニでジュースを買うことはできません。

 その理由は、法律上、犬や猫は何らかの権利を持ったり、義務を背負うことが認められていないからです(そのため、日本の法律では、ペットに財産を相続させるということはできません。)。
 

 次に「社団」は、大雑把に言うと、何らかの目的を持って集まった人の集合体です。

 つまり、権利能力なき社団は、「何らかの権利を持ったり、義務を背負う資格がないものの、何らかの目的を持って集まった人の集合体」ということになります。
 
 言葉だけだと分かりにくいので、具体例で説明すると、たとえば大学のサークル、町内会、学問研究の団体などが考えられます。
 大学のサークルは、何らかの権利を持つことができないため、たとえばサークル名義で自動車を買ったり、不動産を買うことはできません。

 コンビニでジュースを買うことくらいはできても、あくまでそれはサークルのメンバーがコンビニと売買契約をしているだけということになります。
 
 
では、大学のサークルが、大学のサークル名義で物を買ったり、売ったりするには、どうすればいいのでしょうか。

 
その答えは、サークルを法人化してしまうことです。
 
法人は、法律上は人間と同じような扱いがされるため、権利や義務の主体になることができます。
 たとえば、会社は法人なので、法人名義で不動産を所有したり、会社の備品を発注することができます。
 
 権利能力なき社団を、法人化すると、様々なメリットがありますが、法人化の手続きは複雑です。
 法律上の複雑な問題は、弁護士にご相談ください。
 

法律の善意と悪意の意味

 法律では、「善意」や「悪意」という言葉が出てくることがあります。
 たとえば、「善意の第三者」とか、「悪意の占有者」といった形で、法律の中に登場します。
 
 ここで、あえて「法律の中に登場します」と説明した理由は、もちろん日常用語の「善意・悪意」と、法律用語の「善意・悪意」は意味が異なるためです。
 
 まず、「善意」は、日常用語としては「相手のためを想って」といった意味で使われます。
 

他方、法律用語としての「善意」は、「知らない」という意味で使われます。

 
実際の法律の規定を見てみましょう。

 民法162条2項には、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と記載されています。

 この規定は、他人の所有物を、ずっと占有し続ければ、その財産を自分の物にできることを定めた規定です。
 
 たとえば、他人の土地に家を建てた場合、家を建てた人は、その土地を占有していることになります。

 その占有状態を10年間続けると、その土地の所有権を取得することができます。
 
 ただし、いくつかの条件があり、その条件の一つに「善意」が入っています。
 善意は「知らない」という意味なので、ここでは「その土地が他人の土地だと知らなかった(自分の土地だと信じていた)」という意味で使われています。

 
 次に、「悪意」は、日常用語としては、「相手に害を与えてやろう」など、悪いイメージの言葉として使われます。

 
他方、法律用語としての「悪意」は、「知っている」という意味で使われます。

 
こちらも実際の法律の規定を見てみましょう。
 
民法704条には、「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。」と規定されています。
 この規定は、本来得るべきでない利益を得た人は、その利益に利息をつけて返さなければならない旨を定めています。
 
 たとえば、間違って自分の口座に振り込まれた100万円を使ってしまった場合、その100万円に利息を付けて返さなければならないということです。
 この規定には、悪意の受益者という言葉が出てきますが、この言葉の意味は「自分に振り込まれた100万円が、間違って振り込まれたものであることを知っていた」ということになります。

 
 このように、法律用語としての「善意」や「悪意」は、日常用語とはかなり異なる意味を持っています。
 その他にも、法律用語と日常用語の意味が異なるものがありますので、勘違いしたまま話を進めると、思わぬ不利益を受ける可能性があります。

 そのため、法律のことでお困りの方は、弁護士に相談することが大切です。

錯誤と詐欺の違い

 民法を学ぶと、錯誤や詐欺といったキーワードを知る機会があります。
 何となく言葉の意味は分かるものの、イメージがしずらいところではありますので、具体例を見つつ、解説をさせていただきます。
 
 錯誤は、大雑把なイメージで言うと、「思っていたことと違うことをしてしまった状態」を指します。
 言葉だけでは分かりずらいので、具体例を出します。

 
 たとえば、コンビニの店長がジュースの仕入れをする際に、発注書に「ジュース100本」と記載すべきところを、うっかり「ジュース1000本」と記載するようなケースです。

 この場合、コンビニの店長は、ジュース100本を買うつもりだったのに、間違って10倍の発注をしているため、「思っていたことと違うことをしてしまった」と言えます。
 
 1つだけではイメージがわかないので、もう一つ具体例を出します。

 たとえば、100円と100ドルが同じ価値だと勘違いして、100ドルで売られている食器を買う契約をした場合も、錯誤にあたります。

 このケースだと、「100円でこの食器を買おうと思ったけど、実際には100ドルの食器を買ってしまった」ということになります。
 
 他方、詐欺とは、「誰かに騙された結果、思っていたことと違うことをしてしまった状態」を指します。
 これも言葉だけでは分かりにくいので、具体例でみてみましょう。

 
 たとえば、悪徳業者から100万円で宝石を買ったものの、実はその宝石はガラス製の偽物だったような場合です。

 悪徳業者が偽物であると知って、その宝石を売りつけた場合、買主を騙しているわけですから、詐欺行為が存在します。
 その結果、買主は錯誤に陥り、「本物の宝石を買うつもりで、偽物の宝石を買った」ことになります。
 つまり、「騙された結果、思っていたことと違うことをしてしまった」ことになります。

 
 このように、錯誤と詐欺の一番大きな違いは、相手が騙す行為をしているかどうかという点にあります。

 端的に言えば、錯誤は「勝手に勘違いした場合」、詐欺は「相手に騙されて勘違いした場合」ということになります。
 
 では、錯誤や詐欺があった場合、一度交わした契約などはどうなるのでしょうか。

 この点は、錯誤や詐欺で違いはなく、どっちの場合でも契約を取り消すことができます。
 
 もっとも、どんな場合でも契約を取り消すことができるというわけではありません。
 たとえば、錯誤であれば、勘違いしたことに重大な過失がある場合は、契約を取り消すことができません。
 どういった場合に契約を取り消すことができるかについては、弁護士に相談することをお勧めします。

遺留分の金銭債権化

 遺留分という制度をご存知でしょうか。
 遺留分は、相続人に認められた、最低限度の権利です。
 仮に、亡くなった方が遺言書で「全財産を長女に相続させる」といった記載をしたとしても、二女や三女は、法律の割合の半分までは自己の権利を主張できます。
 ただし、遺留分の権利は、子や孫などの直系の子孫、親や祖父母などの直系の祖先にのみ認められています。
 亡くなった方の兄弟姉妹や、甥姪には遺留分が認められていないため、注意が必要です。
 
 かつての制度では、遺留分の権利を行使すると、原則として遺産の全てに対して、少しずつ権利を主張できることになっていました。
 たとえば、相続人が長女と二女の2人で「全財産を長女に相続させる」という遺言書があった場合、二女は遺産の4分の1については、権利を主張できます。
 その結果、長女が取得した不動産について4分の1の権利を取得し、長女が取得した預貯金についても4分の1を取得するといったように、全ての遺産について4分の1ずつの権利を主張できるようになります。

 
 しかし、この制度はとても使い勝手が悪い制度であると批判をされていました。

 たとえば、たくさんの不動産を残して亡くなり、預金があまりないケースで、遺留分の権利を主張するとどうなるでしょうか。
 各不動産について、長女が4分の3の権利を取得し、二女が4分の1の権利を取得することになるため、協力して不動産を管理する必要があります。
 しかし、不平等な遺言書を残された長女と二女は、仲が悪いことが多く、不動産の管理をうまくできない可能性が高いです。

 
 他にも不都合なケースがあります。
 亡くなった経営者は、長男に会社を受け継がせたいと考え、株を長男に相続させたのに、二男が遺留分の権利を行使すると、二男が株の4分の1を取得することになります。
 そうなれば、経営権を巡って、長男と次男で争いが起きるかもしれません。
 
 こういった事態を解消するために、遺留分の権利は、「全部お金で解決する」という風に法律が変わりました。

 つまり、遺留分の権利を行使しても、直接遺産に対する権利は発生せず、多く遺産を受け取った人にお金を請求できる権利に変化したということになります。
 
 このように制度が変わったことで、遺留分の問題は、比較的解決が楽になりました。

 以前は、遺留分の権利を主張して、裁判等をし、その結果遺産の一部が共有物になった場合、その共有関係を解消するために、別の裁判をする必要があります。

 何度も裁判をすることで、解決まで何年もかかるケースがありましたが、相続法の改正によって、短期間で遺留分の問題を解決することができるようになりました。

 他にも、遺留分の制度は大きく変わった点があるため、遺留分について知りたい方は、弁護士にご相談ください。

個人再生のメリット・デメリット

 「今ある借金を減額したいけど、せっかく購入した住宅は残したい」
 そういった方には、個人再生という手続きが適しているかもしれません。
 今回は、個人再生という制度のメリットとデメリットについて、ご説明します。
 
 個人再生という制度は、今ある借金を大幅に減額した上で、残った借金を3年から5年かけて、返済していくための制度です。
 
 この制度の最大のメリットは、住宅を残すことができるという点です。
 もし、自己破産をする場合は、せっかく購入した住宅を、売却しなければなりません。

 しかし、個人再生であれば、住宅を売却しなくてもよくなります。

 
 次に、個人再生を行えば、借金を5分の1から10分の1程度まで、減額することが可能です。
 仮に、600万円の借金を、5分の1に減額できた場合、借金を120万円まで圧縮することができます。

 つまり、借金が480万円減額されるため、借金の負担がとても軽くなります。

 
 また、個人再生では、借金の理由が問われないという点も、大きなメリットです。
 仮に、自己破産を行う場合、借金の理由によっては、借金の返済義務が消えない可能性があります(たとえば、ギャンブルが主な借金の理由だったようなケースです。)。
 そのため、たとえパチンコや、競馬などのギャンブルによって、借金を抱えていたとしても、個人再生であれば、問題なく、手続きを進めることができます。
 
 さらに、個人再生を行っても、資格の制限を受けません。
 仮に、自己破産を行う場合、警備員、生命保険募集人、税理士、弁護士など、一定の資格が制限され、制限中はその資格を使って、仕事をすることができません。

 しかし、個人再生は資格制限がないため、問題なく仕事を継続することができます。

 
 他方で、個人再生には、次のようなデメリットもあります。
 まず、個人再生は、あくまで借金の返済を継続していかなければならない手続きです。

 つまり、借金の負担が完全になくなるわけではなく、しかも今後も継続して収入を得られる予定の人しか、個人再生は利用できません。
 自己破産であれば、原則として借金の返済義務がなくなるため、ここだけを比較すれば、自己破産の方が有利と言えます。
 
 次に、個人再生は、全債権者を対象としなければならないため、ご家族に個人再生したことを知られてしまう可能性があります。

 たとえば、借金の中に、奨学金があって、ご親族が保証人になっている場合、ご親族に個人再生をした旨の通知が届きます。
 
 また、個人再生に限ったデメリットではありませんが、個人再生を行うと、信用情報機関に登録されます。

 その結果、一定期間はクレジットカードを作ったり、新たな借り入れをすることが、難しくなります。

 
 以上をまとめますと、個人再生は、住宅を失いたくない場合や、資格の制限を受けると困るようなケースで、非常に有効な債務整理の方法です。

 自己破産などの、他の制度とメリットやデメリットを比較しつつ、個人再生をするかどうかを選択することになります。

任意整理のメリット・デメリット

 借金の返済を楽にする方法として、任意整理という方法があります。
 任意整理は、借金を大幅に減らすということは難しいですが、比較的短期間で手続きを終えることができたり、マイホームを手放すことなく、借金の負担を減らすことができるなど、様々なメリットがあります。
 そこで、今回は、任意整理のメリットと、デメリットについて、ご説明します。
 
 まず、任意整理とは、各債権者と話し合いをして、今ある借金を、3年から5年程度の分割払いにしてもらうことを目的とする手続きです。
 
 たとえば、200万円の借金がある場合に、5年の分割払いで借金を返すとした場合、毎月約3万3333円を返済すれば、借金を完済することができます。
 この任意整理の最大のポイントの一つは、将来の利息をカットできる可能性がある点です。
 
 つまり、先程の例で言えば、通常は毎月の3万3333円の返済に、利息分も上乗せして返済する必要があります。
 しかし、任意整理を行うと、多くの場合に、利息をカットしてもらえるため、毎月の返済が楽になります。
 
 次に、任意整理は、どの債権者と交渉するかを自由に選ぶことができます。
 そのため、たとえば住宅ローンについては、これまで通りに支払い、他の借金だけ任意整理をすれば、住宅を残したまま、毎月の返済を楽にすることができます。
 
 もし、自己破産を行う場合は、原則として住宅を売却し、借金の返済にあてなければならないため、住宅を残せるという点は、任意整理の大きなメリットと言えます。

 
 他方、任意整理のデメリットは、借金の大幅な減額はできないという点です。
 つまり、任意整理は、原則として、将来の利息はカットできることが多いですが、今ある借金の元本自体は減らすことができません。

 借金の返済義務を原則としてなくすことができる、自己破産と比べると、この点はデメリットということができます。
 
 また、任意整理は、毎月借金を返済していくことを前提とした制度であるため、今後も継続して収入が得られる状態でないと、任意整理は難しくなります。
 仮に、今は収入があっても、退職したり、減給によって借金を返済できなくなった場合は、自己破産を検討しなければならなくなります。
 
 さらに、任意整理を行うと、借金の完済後5年間程度は、新たにお金を借りたり、ローンを組むことが難しくなります。

 
 このように、任意整理は、メリットとデメリットがあり、他の債務整理の方法との関係で、どの手続きが適切なのかは、案件によって異なります。
 借金でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

自己破産のメリット・デメリット

 自己破産という言葉に対して、あまりいい印象を持っていない方もいらっしゃいます。
 しかし、自己破産は、借金で苦しんでいる方にとっては、とても魅力的な制度です。
 また、自己破産をすると、戸籍にその旨が記載されるといった、誤った情報が出回っています。
 そこで、今回は、自己破産のメリットやデメリットについて、ご説明します。
 
 まず、自己破産の最大の魅力は、原則として借金の支払義務が免除されることです。
 また、弁護士に自己破産を依頼すれば、金融機関などから督促が来なくなります。
 
 他方、自己破産にも、一定のデメリットがあります。
 まず、信用情報機関に事故情報として、情報が記載されます。
 これにより、一定期間は、クレジットカードを作ったり、新しく借り入れをすることが難しくなります。
 ただし、せっかく借金がなくなった状態で、また借金を繰り返すことは、その人にとっても好ましいことではないため、強制的に借金をしないようにするという意味では、むしろメリットの一つといえるかもしれません。
 
 次に、高額な財産については、処分され、借金の返済にあてられます。
 たとえば、不動産を所有しているようなケースであれば、不動産を売却した上で、売却代金で借金の返済をすることになります。
 住宅ローンを組んで、持ち家に住んでいる方にとっては、住む場所を失うことになります。
 
 また、資格を使って業務をしている方は、一定期間資格が制限される場合があります。
 たとえば、宅地建物取引士、警備員、税理士などがあげられます。
 我々弁護士も、自己破産をした場合は、資格制限が課されます。
 もっとも、自己破産をして、免責決定が出た後は、資格が復活するため、それほど心配する必要はありません。
 
 他には、官報に自己破産したことが記載されるという点が、デメリットとしてあげられることがあります。
 しかし、官報を日常的に読んでいる人は、ほとんどいないため、官報によって、自己破産したことが知られる可能性は非常に低いと言えます。
 
 いくつか自己破産のデメリットと言われるものをあげましたが、借金の返済義務がなくなるというメリットと比較して、自己破産をするかどうかを選択することになります。
 
 最後に、自己破産に関する、都市伝説的な情報の真偽についてご説明します。
 
 まず、自己破産をすると、戸籍や住民票に、自己破産したことが記載されるという情報ですが、これは完全に誤りです。
 戸籍や住民票に、自己破産したことが記載されることはありません。
 
 次に、自己破産をすると、生活保護や、年金をもらえなくなるという情報も見かけますが、そんなことはありません。
 生活保護や年金は、自己破産と何の関係もありません。
 
 また、自己破産をすると選挙権を失うと言われることもありますが、これもデマです。

 
 以上でご説明したとおり、自己破産は借金で苦しむ方が、経済的な再スタートをするために、とても有効な方法です。

 借金でお悩みの方は、弁護士にご相談ください。

債務整理の種類

 債務整理は,借金の負担を減らすための手続きの総称です。
 何らかの理由で,借金を返すことが難しくなった場合,経済的に再スタートするためには,何らかの方法で借金を減らす必要があります。
 そのための手続きが,債務整理です。
 借金を返せなくなった場合は,債務整理を検討すべきですが,どの手続きが適切なのかは,案件によって異なります。
 
 そこで,債務整理の各種手続きの特徴を簡単にご説明いたします。
 まず,任意整理という手続きがあります。
 
 任意整理は,各債権者と話し合って,利息をカットしてもらったり,長期の分割払いにして,返済を楽にすることを目標とする手続きです。
 各債権者との個別の話し合いであるため,裁判所が関与することはありません。
 そのため,一部の債権者にだけは支払いを続け,他の債権者と任意整理を行うといった,柔軟な扱いが可能です。
 裁判所の関与がないため,手続きは比較的簡易ですが,大幅な借金の減額は難しいことが多いと言えます。
 
 次に,自己破産という手続きがあります。
 自己破産をすれば,原則として借金の支払いを免除してもらうことができるため,借金の負担が一気になくなります。
 もっとも,自己破産は債権者から見ると,貸したお金が返ってこないという不利益が発生するため,自己破産ができるかどうかは,裁判所が審査することになります。
 裁判所には,借金が増えた経緯や,現在の財産の状況などを,丁寧に説明する必要があります。
 
 さらに,個人再生という手続きがあります。
 個人再生は,借金を大幅に減額した上で,残った借金を分割払いにする制度です。
 
 任意整理より借金の額を減らすことができるものの,自己破産のように全ての借金の支払いが免除されるわけではありません。
 つまり,個人再生は,任意整理と,破産手続きの中間的な位置にあるような手続きです。
 個人再生のメリットは,自宅をお持ちの方などが,自宅を失わずに,借金の負担を減らすことができる点です。
 
 仮に,自己破産をする場合は,自宅は原則として処分し,借金の返済に充てなければなりません。
 つまり,残したい財産がある場合は,自己破産より,個人再生の方が向いていると言えます。
 
 個人再生も,自己破産と同じく,裁判所の関与の基で,審理が行われます。

 
 最後に,債務整理とはやや異なりますが,過払い金の返還請求というものもあります。
 過払い金とは,払い過ぎた利息のことを指します。
 
 一定以上前の債務については,過払い金が発生する可能性があります。

 
 以上,簡単に債務整理について,ご説明しましたが,それぞれの手続きごとにメリットやデメリットが異なります。
 借金の返済でお悩みの方は,弁護士にご相談ください。