介護を頑張った場合の寄与分

 相続のご相談の場面では,寄与分という言葉が出てくることがあります。
 寄与分という制度を一言で言い表すと,「亡くなった方に尽くして,貢献した人に,多めに遺産を相続させよう」という制度です。
 

 相続の場面で一番多く主張されるのは,「介護を頑張ったから,私が一番多く遺産をもらうべきだ」という主張です。

 
 「介護を頑張った人に,多めに遺産を相続させるべき」という考え方自体は,多くの方に受け入れられた自然な感情であり,実際に法律に寄与分という制度が存在します。
 

 しかし,この「介護を頑張った」ということは,裁判所はあまり評価をしてくれません。
 裁判所の考え方は,「家族だから介護をするのは当然であり,当然のことをしたからといって,遺産を多く渡す理由はない」というものです。
 
 私はこの考え方に非常に疑問を持っています。

 たとえば,長女が父と同居して,父の介護を一人で行い,他の兄弟は介護をしていないという場合,「介護の負担」という面では不平等になっています。
 
 「家族だから介護は当然」というのであれば,その当然のことをしていない他の兄弟と,介護をした長女が平等に遺産を相続するというのは,何とも不平等だと思います。

 
他方で,寄与分が認められるケースもあります。
 

 たとえば,一人でお風呂やトイレが難しい親の介護を,数年間,無償で行ったというようなケースであれば,「家族として当然のこと」というレベルを超えた,特別な貢献があると認められる可能性があります。
 

 また,認知症がひどく,常に見守りが必要な状態だったというケースであれば,より寄与分が認められる可能性が高まります。

 
 他方で,親が施設に入居している場合,基本的に身の回りの世話は施設の人が行っていることになりますので,寄与分が認められる可能性は低くなります。
 
 私の個人的な意見としては,親が施設にいる場合でも,施設の入居手続き,買い物等のお世話は一人の人が集中的に行うケースが多く,他の相続人と平等に遺産を相続するのは不平等だと思いますが・・・。
 
介護を頑張った場合,どういった事情があれば寄与分が認められるのかは,ケースごとに異なりますので,一度弁護士にご相談ください。

限定承認の手続き

 限定承認の手続きをする際には,様々な注意点があります。
 まず,限定承認は,相続人全員で行う必要があります。
 たとえば,相続人が兄弟3名の場合,一人でも限定承認に反対した場合は,限定承認を行うことができません。

 そのため,限定承認を行う場合は,相続人全員で話し合いが必要になります。

 
 次に,相続人全員で限定承認を行うと決まった場合,裁判所に「限定承認をしたい」という申し出を行います。

 この申し出は,ご家族が亡くなったのを知ってから3か月以内に行わないといけないため,急いで手続きをしなければなりません。

 この期間を過ぎてしまうと,遺産を相続したことになり,借金を全て相続することになってしまうので,注意が必要です。
 
 裁判所が限定承認を認めてくれた場合,原則として5日以内に,「亡くなった方にお金を貸していた方は申し出てください」という記事を,官報に掲載する必要があります。
 
 また,家に借金の通知が来ている等の理由から,債権者がはっきりしている場合は,その債権者に通知を送る必要があります。
 
 これに加え,限定承認を行った場合,亡くなった方の確定申告をしなければならず,確定申告の期限は,亡くなってから4か月以内です。
 「限定承認をしてから4カ月」ではありませんので,注意が必要です。
 

 その後は,不動産を競売にかけたり,借金を返済する等,破産手続きに近いような手続きを行います。
 
 このように,限定承認は,とても慌ただしく,多くの手続きを一度に行う必要があり,とても負担が重い制度です。

 限定承認をお考えの方は,なるべく早く,弁護士に相談することをお勧めします。